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森の恵みを作品にする。
「つくる」という人生を送りたい

Profile

臼田 健二

54歳 木工作家
静岡県出身 2015年移住


「このあいだ、町役場から連絡が来て。町有林で出たパルプ材の中で欲しい木があったら、森に来て印をつけといてって言われてね。」臼田さんは「それが土場に届いたんだけど、この後、見にいく?」と嬉しそうに私たちを誘い、赤い印のついた直径6~70㎝はあろうかというクルミの木を、立派だよねとつぶやきながら優しくなでた。静岡で生まれ、東京でソフトウェアの開発者だった臼田さんは、もともと、何かを生み出すことが好きなのだろう。30歳で家具職人になろうと決心し、旭川での修行を経て、木工作家として東川に20年間根を下ろしていた。2015年、下川への再移住。その裏には臼田さんの奥深くに眠っていた想いが見えてくる。

interview:2017年3月

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臼田 健二

木工作家 静岡県出身

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消費する人でなく、生産する人として生きたい

東京で働いていた忙しい毎日の中で、ふと「自分は消費するために生きているのか」という想いが沸き上がってきたんです。お金を稼いで消費する、消費するためにお金を稼ぐ。こういう消費社会から脱出したいなと。生産して生きていく側に回りたいと思ったんです。もちろん、ソフトウェアの開発だって「生産」には変わらないのですが、もっと実態のあるものというか、手で触れるものというか、何か形に残るものをつくっていきたくなったんですね。昔から自然が好きだったのもあって、北海道で家具職人になりたいと思い、会社を辞め旭川の技術専門学院で一年間、その後家具屋さんでの一年間の修行を経て、独立して東川に工房を構えて20年。家具よりも置物や時計など、小さくて自由なもので勝負したいなと思って、作り続けていました。それらを全国の百貨店や家具屋さんに卸したり、展示会で販売したりしています。

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手で触れられるものを作る

家具よりも置物や時計など、小さくて自由なものを作り続けています

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木の記憶が、形になって残っていく

パルプや薪になってしまうような木を形にする持続可能なモノづくりを続けています

パルプになる木を、なんとかいい形で活かせないか

4~5年前に雑誌かなにかで、日本で供給されている木材の7割が輸入材だと知ったんです。それまでは木工作品をつくりながらも、木のことにまで考えが及んでなかったのですが、気になって調べ始めて。普段使ってる日本の広葉樹の8割近くがパルプやチップになることも知りました。何十年と時間をかけて育った立派な木が、曲がっていたり節が多そうだという理由でパルプやチップになってしまうんですよ。なんというか、…かわいそうですよね。確かにパルプ材の木は家具を作るような板材を得るには向かないものが多いんですが、それを、別の形にできないかと。うつわを作り始めたのはこのころからです。そんなときに、パルプ材になってしまう木を選別し製材する事業を始めたばかりのNPO「森の生活」の麻生さんがうちに飛び込みで営業に来てくれて。麻生さんの木に対する想いや、「森の生活」の活動にとても共感しました。うつわ以外の作品もパルプ材で作りたいと思っていたのもあって、すぐに下川を訪れて、そこからはいろんな人に協力してもらって、工房や住居を紹介してもらい、移住することになりました。

臼田さんの一日

ON

07:00 起床、朝食。ヨガ
08:00 メールやネット注文の状況をチェック
09:00 工房へ向かい、展示会に向けた器づくり
12:00 家に戻って昼食
13:00 引き続き工房で器づくり。今日1日で10個程度できた
20:00 帰宅、夕食
21:00 入浴などのんびり過ごす
23:00 就寝

OFF

前日まで 中野のギャラリーで森の写真展を開催
07:00 東京のホテルで起床、朝食
10:00 気になっていた上野の美術展に
12:00 東京時代の同僚と昼食
14:00 取引先の青山の店に納品
16:00 恵比寿の写真美術館へ
19:00 友人と飲み会
23:00 ホテルへ戻り、就寝
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もう忘れていた、20年来の夢が下川で叶った

昨年末、モノづくりに関わる友人たちと一緒に森を買ったんですよ。森林組合に登録しておくと、売りに出たときに声がかかると教えてもらって。これからが本当に楽しみです。実は20年ほど前にパーマカルチャーの本を読んでいた時「自分で森を手入れして、そこの木でうつわを作れれば最高だな」と考えていたんです。ただ、森を買うなんて現実的ではなくてずっと忘れていました。でも、下川には「マイ森」(笑)を持っている人が何人もいてそれを思い出しました。購入した森は80年くらい前に皆伐されて、その後手入れがされていない、広葉樹が主体の天然林なのですが、これからこの森を管理しながら育てようと思っています。その過程で出る木材を使って作品を作るという持続可能なモノづくりができることは理想的ですね。 倒木の危険があって切られた古民家のとても立派なカエデの木を、薪にするものだからと譲り受けたこともあります。その時にそこを利用していた人達からその木の一部で何かうつわを作ってくれたらと頼まれて作ったのですが、そうやって木の記憶が、形になって残っていく仕事ができるのは、本当にうれしいんです。これは、なんというか、使命のようにも感じています。パルプや薪になってしまうような木を少しでも長く、形にしてたくさんの人の手元に届けるということや、その一方で森を育て利用するということが。

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ここで暮らす、明確な理由を持ったおもしろい人がいる

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最近はまた原点に戻って、自分の生活を消費社会からどうシフトさせていくかを考えています。何を幸せに思うかって自由じゃないですか。モノを所有することやお金を使うことに幸せを感じるのではなくて、森を歩いたり、星空を眺めたり、野菜や植物を育てたり、気の合う友人と語り合ったり、そんなことに幸せを感じられる感性を育てたいって思っています。下川ではそれができるんじゃないかな? 下川って明確な理由がないと移住しないところですよね。だから、強い理由を持った、おもしろくてエネルギーのある人が集まってくる気がします。「森の生活」の麻生さんをはじめ、そんな人たちと一緒にイベントを企画したり出たりするのは、刺激になります。これからの楽しい生き方を、こんな風に模索し続けたいですね。

Photo:seijikazui Text:Rie Kuroi

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