物事を俯瞰して、必要なことをする
あまり意志にとらわれすぎず生きていきたい。

Profile

麻生 翼

34歳 NPO法人代表理事
愛知県名古屋市出身 2010年移住


「最近は・・・なんだか落ち着かないですねぇ」 麻生さんはゆったりとした口調でそう言いながら木のカップにコーヒーを注ぎ、事務所の薪ストーブの扉を開けて中の様子を確認した。通常の仕事はもちろん、札幌や東京への度重なる出張、町の総合計画策定のための会議。森と町、そして暮らす人の関係を俯瞰して見る麻生さんの元には、いろいろなプロジェクトや仕事が舞い込んでくる。名古屋市という都会で生まれた麻生さんが、下川というフィールドで作りたい未来とは。

interview:2018年5月

麻生 翼

NPO法人代表理事 愛知県名古屋市出身

自然のことを考えると、人間と森林の関わりに辿り着いた

名古屋から北海道に移り住んだのは進学がきっかけです。大学の農学部で、森林を学んでいました。もともとは自然を守るために生態学が学びたくて、いくつかの大学を検討しましたが、北海道の広いキャンパスが気に入って。ゼミでは森林政策学が専門で、そのゼミのOBがNPO法人「 森の生活 」の前代表でした。その頃に一度、下川町を訪れていますが、将来下川に住もうだなんて思ってもいなかったですね。卒業後は関西の種苗会社に就職して、その後ご縁をいただいて北海道内でグリーンツーリズムに携わり、最終的に下川に辿り着きました。 実はその間、当時の「森の生活」の代表から「下川に来ないか」というメールを時々もらっていたんですよ。特にそれに応えるわけでもなく近況報告をする程度だったのですが、2010年、次のステップを考えていた時にもらったメールに「森林環境教育の担当者を募集しているから応募しないか」と書いてあったんです。道内の他の地域で林業に従事するという選択もありましたが、人と関わることをやりたいなとも思っていましたし、面接で「経営的な視点を持ってやってほしい」と言われて、僕自身も従業員として雇われ仕事をするだけの働き方をするつもりはなかったので、そんな意味でも合いそうだなと。連絡をいただいた後、すぐに移住して、2013年には「森の生活」の代表理事になりました。

森の入り口に建つ森の生活事務所

小高い丘にある美桑の森は町民が集う憩いの場

薪ストーブのある事務所

冬でも暖かい森の生活での仕事風景

他の町にはない、新しい何かがが生まれるところに立ち会える

「森の生活」の事業は森林環境教育から宿泊施設・交流施設の管理運営、まちづくり推進など幅広いのですが、2015年から下川町に生えている広葉樹の木材加工を始めました。これは「森の生活」にとってはもちろん町にとっても大きな転換だと思っています、大げさかもしれませんが。下川の森の木を自分たちで加工できるようになることで、既存のコンテンツや事業が川上から川下まで一つにつながっていくんですよね。「森×〇〇」がどんどんできるようになってきました。今後はこういうチャレンジを繰り返して、林産業の可能性をもっと引き出したいなと思っています。現在は全国の地方創生トップランナーの市町村と一緒に地域の起業家を育成する「ローカルベンチャー推進事業」も動かしており、「人づくり」も大切です。結局、人材がいないと続けられませんから。いろんなことをやっているのですが、新しい何かが生まれる時にはワクワクしますね。

最近は下川町の総合計画策定の部会にもメンバーとして参加しているのですが、これもとても楽しいです。「SDGs未来都市部会」という名称で、国連が定めるSDGs(国連持続可能開発目標)の視点を持ちながら、2030年の町のビジョンを考える部会です。若手の行政職員と市民で、立場を越えて未来について真剣に語り合っています。他の自治体にはない取り組みですね。月に2回ほど、仕事が終わった18時半から3時間ほどが会議で、終了後も飲みながら話は続いて、なかなか終わりません(笑)。

麻生さんの一日

ON

06:00 起床
06:30 メールチェックや報告書作成などの仕事
07:30 朝食、お弁当(おにぎり程度)を作る
08:45 森の生活に出社。町役場、コモレビでそれぞれ打ち合わせ
12:00 事務所で昼食
13:00 地元の木材加工会社下川フォレストファミリーへ。木工クラフト制作事業について打ち合わせなど
17:00 退社。コモレビへ移動しメールチェック
18:30 軽食をとったあと、町の会議へ
21:00 会議のメンバーと夕食
23:00 帰宅・就寝

OFF

09:00 起床、朝食や家事
12:00 家で昼食
13:00 狩猟の準備など
14:00 エゾシカの狩猟へ
17:30 夕食準備、夕食
18:30 家で映画鑑賞
21:00 五味温泉へ
23:00 就寝

物事を俯瞰して、個人的な意志にとらわれず、必要なことをする

ローカルで活動する人に向けたヒアリングなどで、対話の相手の原体験を掘り下げて、行動の源泉やパワーの源を探る記事をよくみかけます。もちろん、それも大事なことだと思う一方、最近、それは行動を説明するためのひとつの解釈でしかないのかなと思うことがあります。なんとういか、あまり意志にとらわれすぎずに生きたいなと、思い始めています。こうしたい、こうあろう、とするとそれに囚われてしまうし、うまくいかないとがっかりするし。もちろん意志の力で動くこともあるし、今も大事だと思う時には意志をもって動きますけどね。物事を始めるとき、そこに強い意志があるというよりは自然と「そうなっちゃってる」っていう感じなんですよ。なんというか、いい音楽を聴いて「ああ、いい音楽だな」と思う時って、理由はないですよね。そういう感じです。かといって気まぐれな直感だけで動けばいいとうことではないんですけど・・・。

これまでを振り返ってみると、僕は3つくらいの視点や思考で物事を見て、どこからみてもここに辿り着くなと感じたら、それは検証すべき仮説だと判断して実行に移しているように思います。現在、地元の木材加工会社の管理や企画に関わっているのですが、それも「自分の持つ地域外の人とのネットワークを生かした、下川の木材加工事業の発展」「広葉樹の利活用など木材の高付加価値化」「地域で課題になっている事業継承や人材育成の今後」といった視点で考えていたときに、この会社に関わると新しい可能性が開きそうだなと感じて行動に移しました。 これからどんな風になりたいか、ですか? そうですね・・・いろんなものを手放していきたい。将来は、優しいおじいちゃんになれたらいいかな(笑)。

Text:Rie Kuroi Photo:seijikazui

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