暮らしと経営のバランスをとりながら、
長く続けられる酪農業を目指して

Profile

豊田庸三/愛子/早希ちゃん/有希ちゃん

豊田庸三さん 46歳 酪農家 北海道札幌市出身 2014年移住
豊田愛子さん 36歳
豊田早希ちゃん 7歳
豊田有希ちゃん 4歳


「子牛、見ていきますか?」と誘われて牛舎に入ると、かわいらしい子牛たちが私たちを見上げ、近づけた手をぺろりと舐めた。「この子はまだ生まれたばかりで、この子は3か月くらいかなぁ」とやさしい眼差しを向けて話す。 一次産業というと厳しい労働環境をイメージしがちだが、暮らしと経営のバランスを取りながら持続的な酪農業を目指して下川に移住してきた、豊田さんの選択と働き方を聞いた。

interview:2019年9月

豊田庸三/愛子/早希ちゃん/有希ちゃん

酪農家 北海道札幌市出身

まずは一度来てみたら、とすぐに話が進む

帯広の大学を卒業後、十勝を中心にいろんな仕事をしていたんです。花屋をやったり居酒屋をやったり……。なにか「これがやりたい!」という想いよりも、軽い気持ちで始めてやっていくうちにおもしろくなるタイプで。酪農もそんな感じでヘルパーとして始めて、一時期は牧場の従業員でした。人口授精師という資格を持っているんですが、周りの農家に勧められて取ったんです。そのおかげで酪農業の関わりが増えて、自分でも独立してやってみたいなと思い始めました。

その後、稚内では10年、酪農ヘルパーや農協職員として酪農業携わり「さあ、自分でも酪農を始めよう」と場所を探しているときに、インターネットで下川を知りました。いくつかの自治体に問い合わせていたのですが年齢制限があり、当時40才を超えていたので就農できない地域もあって。そんな中で下川の役場に問い合わせたら、まずは一度来てみたらという感じですぐに話が進みました。

妻と一緒に来訪して、酪農家の方のお話しを聞いたり、住みやすいかどうかという視点からも街を見て周ったりしました。下川町内には病院もコンビニもあるし、車で20分ほど行けば大手量販店もあります。2月くらいに来たのですが、雪が多いという印象よりも、稚内から南に降りてきた、街に来たなという印象が強かったです。4月には農村活性化センター「おうる」に滞在して研修を始め、自分にもできそうだなと判断して、6月には当時2歳だった娘も含めて家族で本格的に引っ越してきました。その時も、役場の方が公営住宅の情報などを丁寧に教えてくれて、本当に助かりましたね。

子牛にミルクを与える

牛に飼料を与える

下川で出会った人たちと離れたくない、と強く思った

愛子さん:私たちがそれまで住んでいたところは本当に田舎で、コンビニもセイコーマートのみ、テレビのチャンネルも少なくて。最初に下川に来て嬉しかったのは、テレビのチャンネルが多いということと、近くの市に行けばいろんなコンビニがあるっていうことだったんです(笑)。子どもがいましたので、隣接している名寄市立病院の小児科が24時間体制なことなどは事前に調べていて、いろんな意味で安心して暮らせる街だなと感じていました。

実際に来てみてありがたかったのは、下川の人たちの「ウェルカム感」です。幼児センターに子どもを連れていくと、子どもだけでなくお母さんたちも「どこからきたの」と、どんどん話しかけてきてくれるんです。私は人見知りなのでそれが本当にありがたくて。「こういうイベントあるけど一緒に行かない?」といろんなところに誘ってくれて、そこに行くと「最近移住してきたんだって?」と、また別な方が声をかけてくれる。

下川に来てから2人目の娘を出産したのですが、入院中に夫の就農が予定通りに進まずに苦戦していていることを聞きました。今後どうしようかと悩んだときに、下川でできた友人たちの顔が次々と思い浮かんで「ここを離れたくない」と涙がぽろぽろとあふれてきたんです。

最初はコンビニや病院があるかどうかとか、テレビのチャンネルが多いかとかに目を向けていた私ですけど、1年いただけで「人」が、下川町で暮らしたい理由になったんですね。それから、お世話になっていた研修先の農家さんや役場の方がいろいろと手を尽くしてくれて、いまの場所で就農できました。

豊田さんのー日

On

05:00 起床。牛舎の片付け、餌やり、搾乳など
08:30 朝食
08:30 帰宅、出社準備
10:00 牛舎の掃除
12:00 昼食
13:00 牛舎の整備や雑用
15:00 家に戻って昼寝
16:00 朝と同じように、餌やりや搾乳
19:00 夕食
21:00 就寝

OFF

05:30 起床。牛舎の片付け、餌やり、搾乳など
08:30 朝食
10:00 街のイベント「森ジャム」へ
14:00 家に戻ってゆっくり過ごす
16:00 牛舎の片付け、餌やり、搾乳など
19:00 夕食
21:00 就寝

暮らし、経営、やりがいのバランスをとる

庸三さん:私がこの場所を選んだ理由の一つとして、暮らしやすさがあります。広い土地で放牧する方法をやってみたい想いがなかったわけではありませんが、それするとどうしても辺境の地になっちゃうんですよね。暮らし、経営、やりがい。これらをすり合わせて今のスタイルとなり、下川町で就農することにしました。気苦労もないですし、暮らしに困らない程度の稼ぎもある。

この、牛も自分も無理のないスタイルを継続していきたいです。 私みたいな経営の仕方もあれば、町内には放牧している酪農家さんもいらっしゃいます。ここでは、さまざまな酪農スタイルが可能だと思います。下川フィードサービスという共同で飼料を育てる企業は糞を堆肥にする事業もやっていますし、私のように飼料は購入して運営する方法もあります。下川は酪農関係の生態系は大きいほうです。

もし酪農をやってみたいなら、1‐2年ほど地域で研修を積んだりヘルパーを経験していろんなやり方を見たり、地域でいろんな方と知り合いになって始めるのがいいと思います。それに、下川はそのステップが踏めるようになっています。今後は、周りの土地も活用しながら、牛の環境整備を進めて、自分の子どもに自信をもって飲ませられる、きれいで安全な牛乳を搾っていきたいと思っています。

Text:Rie Kuroi Photo:Seiji Kazui

移住者へのインタビュー

「ここは他の地域と違う」という直感を信じて

2024.3

下川町は、たまたま流れ着いて気づいたら何年も住んでいるという方が、決して珍しくない気がします。徳間さんも、そのひとり。...

徳間和彦(とくま かずひこ)

1957年釧路市生まれ 2007年 移住

Read more...

誰にも縛られず、できることから始めよう

2023.10

住む場所を決める基準は、人それぞれ。血縁者がいたり、好きな風景があったり、お気に入りの店があったり、...

塚本あずささん

アロマセラピスト埼玉県出身 2019年移住

Read more...

いつのまにか“しっくりくる暮らし”にたどり着いた

2023.07

筆者が下川町に移住し、まだ数日しか経っていない頃。「美桑(みくわ)が丘」と名付けられた森で、薪小屋を作るワークショップがあると聞き、...

成田菜穂子さん

NPO法人森の生活 東京都出身

Read more...

楽しいことを見つければ 、人も未来もつながっていく

2023.03.29

「「新しいことを始めるのに、遅すぎることなんてない」。口で言うのは簡単です。年齢にかこつけて「今更やっても仕方ない」...

尾潟 鉱一さん

大阪府出身 1984年移住

Read more...

下川は、都会とは違うスイッチが入る町

2023.03.29

「人には、風の人と土の人がいる」という話を聞いたことがあります。ひとところに留まり、その土地での暮らしを味わい根を張る覚悟を持つ人...

吉岡芽映さん

北海道上士別市出身 2020年9月移住

Read more...

型にはまらずやってみよう納得感のある暮らしを求めて

2022.03.29

新型コロナウイルスの蔓延による、あらゆる行為の自粛は、私たちの暮らしを見直す、忘れられないきっかけの一つになりました。...

山本菜奈さん/林将平さん

神奈川県出身 東京都出身

Read more...

下川町に来てから、自分の世界が広がった

2022.03.29

人口の少ない地域での暮らしは閉鎖的、というイメージは、決して珍しくないのではないでしょうか。声優の専門学校に通っていた佐藤飛鳥さんは、...

佐藤飛鳥さん

25歳 埼玉県出身 2017年移住

Read more...

できるだけどんなことにも参加して、地域に恩返しをしたい

2021.11.30

下川町に暮らす女性たちの移住のきっかけは、結婚や転職など人それぞれ。山崎春日さんは下川町の隣町の名寄市で育ち、結婚を機に...

山崎春日さん

45歳 新聞屋、ラジオパーソナリティ

Read more...

いつも誰かが、楽しい道へ導いてくれる

2021.3.25

下川には、手作りが好きな女性たちが作品を持ち寄り、イベント出展などをする「森のてしごとや」という有志のグループがあります...

橋本光恵さん

橋本光恵 44歳 旭川市出身

Read more...

活かしあうつながりのなかで“生産”する暮らしを

2021.1.11

筆者が下川に移住する前、「モレーナ」店主・栗岩さんの記事を、何度も読みました。絵を描きながら海外を旅して、...

富永夫妻

富永紘光 2012年移住 /宰子 2017年移住

Read more...

持続可能な社会を目指して、下川町にたどり着き暮らし続ける理由

2020.6.1

取材をしたのは、2020年3月末。コロナウイルスの感染拡大による自粛要請が、日本各地へ広がり出した、ちょうどその頃です...

奈須憲一郎

46歳 1999年移住 愛知県名古屋市出身

Read more...

自分の気持ちに正直に、ていねいな暮らしを目指して

2019.12.20

生活の中の「今の暮らし、しっくりこないな」という違和感は、時折心の片隅に一筋の煙のように立ち上がってきます...

藤原佑輔

35歳 札幌出身 2017年移住

Read more...

会社と家を往復する忙しさを脱し、農業の道へ

2019.9.30

「子牛、見ていきますか?」と誘われて牛舎に入ると、かわいらしい子牛たちが私たちを見上げ、近づけた手をぺろりと舐めた...

吉田公司

58歳 網走市 2009年移住

Read more...

暮らしと経営、長く続けられる酪農業を

2019.9.20

「子牛、見ていきますか?」と誘われて牛舎に入ると、かわいらしい子牛たちが私たちを見上げ、近づけた手をぺろりと舐めた...

豊田さんファミリー

2014年移住

Read more...

野生に返れる楽しさ、川の魅力を伝えたい

2019.6.11

「小学校1年生のときの文集で『北海道で自然ガイドをしたい』って書いてたんですよね」。その夢がいま、叶ってるんです、と嬉しそうに話す...

園部峻久

2018年移住

Read more...

50年以上愛されてきた卵を通して、新しい幸せを

2019.4.2

「楽しみは、自分で探さないとね」と村上さんがつぶやくと、能藤(のとう)さんはふっと笑った。50年以上の歴史がある「阿部養鶏場」を札幌の...

あべ養鶏場

2016年移住

Read more...

素直に飾らずに暮らせるのがいいんです

2019.3.25

雪にめがけて走り出した息子さんをやさしい眼差しで見守りながら「この子は下川生まれですからねぇ」とつぶやいた。...

高松峰成/慧

2016年5月移住

Read more...

仲間とともに「家具乃診療所」を始めたい

2018.11.19

「一の橋に来てから、人のことを『人間』って言うようになったんですよね」。 木屑が雪のように降り積もる工房の中で、河野さんは「なんでだろう」...

河野文孝

41歳 埼玉県川越市 2016年移住

Read more...

自ら何かを生み出し、恩返しもしていきたい

2018.10.26

「このあいだ作ったフサスグリのジュース、飲んでみます?」 真っ青な空と、緑が映える木々をバックに、「cosotto, hut」は、まさに「こっそりと」...

山田香織/小松佐知子

山田さん福島県出身/小松さん岩手県出身

Read more...

小さいころに食べた下川のおいしいフルーツトマトを作りたい

2018.8.24

研修ハウスで今年から始めたフルーツトマトを眺めながら、直紀さんが「これはちょっと難しい品種で、まだまだうまくいかないんですよね...

睦良田 直紀/まい子

名寄市出身2017年に移住

Read more...

物事を俯瞰する。意志にとらわれすぎず生きていきたい。

2018.5.21

「最近は・・・なんだか落ち着かないですねぇ」 麻生さんはゆったりとした口調でそう言いながら木のカップにコーヒーを注ぎ、...

麻生翼

NPO法人代表理事 愛知県出身

Read more...

誰もやったことのない表現や技術で作品をつくりたい。

2018.2.26

撮影に伺った日は、ちょうど下川神社に奉納する干支のチェンソーアートを制作中だった児玉さん。親子のオオカミの形をした作品を見せてくれた。...

児玉(木霊)光

チェンソーアーティスト 愛媛県生まれ

Read more...

minami

旅をしたら、地元の名産が食べたいでしょう。下川ならではの店をやりたい

2017.11.2

「どうぞ、いらっしゃいませ」 開店前の忙しい時間、私たちが訪れると、仕込みの途中だったのか白い前掛けを外しながら調理場から出てきてくれた...

minami

南 匡和

飲食店経営 札幌市生まれ

Read more...

komine

夢見てきた田舎暮らし。健やかでおいしいトマトを一生つくり続けたい。

2017.08.10

「この箱詰めが終わるまで、ちょっと座って待っててくれる?」訪れた私たちをちらっと目視したあと、笑顔のままで目線を手元に戻しつつ...

komine

中田 豪之助/麻子

東京都出身 2005年に移住

Read more...

komine

だれもが物々交換をしているような、地域と自然と経済を生み出したい

2017.07.11

「これ、どうぞ。今日のおやつです。妻が作ったのでみなさんも食べてください」そう言って差し出されたのは、ヨモギの蒸しパン。

komine

小峰 博之

福岡県生まれ 1998年に移住

Read more...

森の恵みを作品にする。「つくる」という人生を送りたい

2017.03.24

このあいだ、町役場から連絡が来て。町有林で出たパルプ材の中で欲しい木があったら、森に来て印をつけといてって言われてね。

usuda

臼田 健二

静岡県出身 2015年に移住

Read more...

スポーツ、健康、医療、福祉。下川だからできる連携を生み出したい

2017.03.10

「あ、雪が降って来たねぇ。じゃあ、外に行ってみようか?」 和也さんの声に、待っていましたとばかりに「うん!」と答える娘さん...

takemoto-002

竹本 和也/竹本 礼子

2008年に移住

Read more...

visual-interview-03

終わりのない、答えのでないものを、ずっと考え続けていきたい。

2016.12.30

北海道に憧れて、大学卒業後に北海道新聞の記者として移住してきた荒井さん。道内を飛び回る充実した日々の中で、ふつふつと沸いてくる...

荒井 友香

茨城県出身 2015年に移住

Read more...

visual-interview-02

森のあるライフスタイルを、私たち自身が体現していきたいんです。

2016.12.22

二人が出会ったのは2004年。すでに下川に移住していた大輔さんの勤め先である下川町森林組合に、真理恵さんが興味を抱いて...

田邊大輔/真理恵

2004年に移住/2007年に移住

Read more...

旅をして、自然の中で暮らす。自分のやりたいことをやると決めたんです。

2016.11.10

下川に移住を決めたのは、世界一周の旅の最中でした。もう5年も終わりのないような旅をしていたのですが、日本に帰ろうと思って。

_mg_7687

栗岩 英彦

静岡県出身 1991年に移住

Read more...