あこがれていた田舎暮らし
無理せずぼちぼち、紡ぎ、つづる日々

Profile

鈴木和夫

鈴木和夫 58歳 美幌町出身 1992年移住


都会と田舎、どちらが良いかなんて、誰にも決められません。両者それぞれに、泥臭いところも魅力的なところも、たくさんあります。けれど「都会と田舎なら、こちらの方が水が合う」と感じる場所が、あるのではないでしょうか。

鈴木さん夫妻は、2020年で移住28年目、そしてちょうど就農20周年。水が合う、理想の暮らしを探してたどりついた下川町で、どんな日々を送っていらっしゃるのかをうかがいます。

58歳 美幌町出身 1992年移住

ずっと田舎で暮らしたかった

ぼくは美幌町出身ですが、妻は大阪出身で、旭川の大学の登山のサークルで出会いました。妻が生まれ育った街は建物が密集していて、人が多い都会の生活が嫌だったようです。彼女は高校生の時から農業をやりたいと思っていたようで、大学に入学すると同時に北海道に来て、そして知り合いました。

結婚してからは札幌に住んで、ぼくは会社勤めをしていましたが、もうすぐ30歳になるという頃、30代になると転職も容易ではなくなるだろうということで、田舎の方へ行こうと思ったんです。妻が田舎に住みたいと、ずっと言っていましたから。札幌から、まずは富良野へ引っ越したんですが、もっと田舎らしい生活がしたいと思って。ある日、購読していた日本農業新聞で酪農ヘルパー制度というものが新しく始まったことを知りました。「酪農家にも休日を」という目的で、畜主の代わりに搾乳をしたり飼料を与えたりする人を育成していると。まだ制度ができたばかりだったから、各地に酪農ヘルパー組合はできたけど、従事する人が少なかったようです。

訓子府町に「ホクレン実験研修農場」(当時)という酪農の研修ができる牧場があって、そこで1ヶ月研修を受ければ酪農ヘルパーになれると言われました。最初は酪農家になろうとは思っていませんでしたが、ヘルパーは不足しているから必ず就職できるし、確実に田舎へ行けるということで、研修を受けました。その研修期間中に、下川町の方に「うちで酪農ヘルパーをやらないか」と誘っていただいたのが、ここへ来たきっかけです。

放牧酪農をする理由

下川に移住してきてからは、6年間くらいヘルパーをやっていました。いろんな酪農家さんたちを見るうち、自分でもやってみたらおもしろそうだなと。そこで、2年間研修を受けて、平成12年(2000年)に新規就農しました。

町内には、牛舎の周りにまとまった土地があるような放牧に適した場所があんまりなくて。でもいま住んでいるところがちょうど空いていたので、ここなら放牧を取り入れた酪農経営ができるのではないかと思いました。

放牧のようす(鈴木さん提供写真)

一般的に、放牧しないほうが乳量は増えると言われています。牛の体重が何キロで、これらいの餌を食べると、乳量と脂肪分がどれくらいで……というふうに餌の量がきちんと管理できるから。でも放牧すると、どれくらい食べたかわからないし計算しづらい。そういう理由などもあって、下川町でも以前は放牧していた酪農家もみんな放牧をやめてしまい、僕たちが就農したときは搾乳牛を放牧する農家はうちだけでした。今でもそうです。町内で放牧している酪農家がいなかったので、勉強のために「放牧研究会」というメーリングリストに入りました。そして、全道の放牧酪農の人たちと連絡を取り合っていたんだけれど、よその町では放牧酪農に対して「そんなことやったってダメだよ」と言う人もいるらしいと聞いていました。牛乳の出荷量が少なくなり、経営が立ちゆかなくなると言うんです。

ところが「現代農業」という雑誌に中標津の酪農家さんの経営について、酪農学園大学の先生が書いた文章が載っていました。全道の平均が一頭あたり7,000~8,000キロの乳量なのに、その酪農家さんは1頭5,000キロくらいの乳量で、すごく儲かっていると。ちゃんと考えて営農すれば放牧酪農もできるに違いないって思いました。風景としても、放牧していたほうが楽しい雰囲気になりますしね。下川には誰も「放牧酪農なんてダメだよ」言う人がいなくて、それはよかったなと思います。自由にやらせてくれました。

今は町内の「矢内菓子舗」さんに、プリンなどの原料としてうちの牛乳を使ってもらっていますが、少しでも役に立っていると思うとちょっと嬉しいですね。

鈴木さんのー日

On

05:00 起床
05:30 搾乳など牛舎仕事
08:00 朝ごはん
09:00 牧草作業の準備
10:00 牧草作業
14:00 昼ごはん
15:00 牧草作業
17:30 搾乳など牛舎仕事
20:30 夜ごはん
22:00 就寝

OFF

05:00 起床
06:00 搾乳など牛舎仕事
08:00 朝ごはん&ゆったり
10:00 俳句や読書
14:00 昼ごはん
15:00 ロール入れ、除雪など
17:00 搾乳など牛舎仕事
19:00 夜ごはん
20:00 俳句や読書
22:00 就寝

周りの声を聞くうち地域の暮らしが馴染んでくる

ちょうどぼくたちが下川町に来た頃、人口が5,000人を切ったばかりでした。当時子どもが2人いて、妻が3人目を妊娠していたので「子どもがいっぱい産まれて、人口が戻るかもしれない」と、町の人たちが話していたのがとても印象に残っています。よそからの移住を、歓迎してくれている雰囲気でした。それから当時、移住者に下川町の印象を語ってもらうことを目的にした役場主催の集まりがありました。それがきっかけで月に1回、移住者たちが集まって飲んで語り合おうという会が発足しました。「モレーナ」の栗岩さんとか、フルーツトマトを作っている及川幸雄さんとかと、いろんなことを話せて楽しかったですね。あの頃から、ちょっと毛色の変わった人が下川町に集まり始めた気がします。

うちは市街地から離れたところにあるので、なかなか人が訪ねては来ないですが、寂しくはないですよ。ぼくも妻も人見知りだから(笑)。今はそういう集まりはないけど、1ヶ月に1回、下川の句会に参加しています。俳句が好きで、平成20年(2008年)の暮れくらいから続けています。

十勝で獣医をやっている豆作さんという方のブログを、ずいぶん前から愛読していて、すごく詳しく動物の病気や体のことが書かれた記事の合間に、ときどき俳句のことが書いてあったんです。それを見て、おもしろそうだからやってみようかなって。俳句をやっていると、いろんな職業や立場の人と気軽に付き合えるんです。それが楽しくて、これからもぼちぼち続けたいなと思っています。

 酪農も最初は不安だったけど、20年近くやってこれて、ちゃんと生活していけているから良かったなと。研修中や就農したばかりの頃は、よそのすばらしい牧場やすばらしい牧草地をあちこち視察に行きました。良い牧草地は、牛がきれいにまんべんなく食べるんですよね。「ああいうふうになれたらいいな」って思ったこともあったけど、よそはよそ、うちはうちで、やっていけているからいいかなって。

 新規就農したい人って「これがやりたい!」って明確な意思があるけれど、自分の意見ばかり通そうとすると、むずかしくなってしまうんですよね。常に視野を広く持っておくことは大事かなと思います。それに、少しくらい折れたほうが、うまくいくこともある。慣れてくると「どうしてあんなに突っ張っていたのかな」って思うくらい、地域での暮らしに馴染んでくるんです。最初は自分の今までの常識とは違うところに地域の常識があるから、違和感もありましたが、地域の集まりとかいろんなことを通じて、馴染んでいったんですよね。

 それから、信用かお金のどちらかは、持っていた方がいい。お金がないなら、ここに来て信用を築く。信用がないなら、お金を持ってくる。ぼくらはお金がなかったけれど、6年間ヘルパーをやる中で得た信頼があったから、就農できたって思います。

 妻は、移住する前に思い描いていた理想の暮らしについて「達成率50%くらいかな」と言っています。田舎暮らしでやりたいことがいっぱいあったんだけど酪農の仕事が忙しくて。まあ50%でいいかなってところで。牛を飼ったり、ヤギを飼ったり、薪を作って薪ストーブを焚いたり、家庭菜園は毎年じゃないけどできているし、叶ったものもけっこうあると妻も言っているので、ぼくとしてもまあまあ良かったと思っています。

Text:Misaki Tachibana Photo:Yujiro Tada

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