【商工会】会長 三津橋 英実

地元で木材加工を中心とした事業展開を行う会社の社長。下川町社会的企業設立委員会のメンバーとして町の社会課題をビジネスで解決する糸口を模索したり、廃業になった蕎麦屋で時折町民向けに手打ちそばを振舞ったりと、地域に精力的に関わる。


アレカラ
下川町は高齢化率が高く小さな人口規模ですが、若者に活力がありますね。三津橋さんが若かった頃はどうでしたか?

谷さん(現町長)が商工会青年部部長を務めていたとき、自分は副部長をやっていたんだ。そのとき参考になったのは、下川町が主体になってつくった「北の星座共和国」という名の広域連携。あれは当時、これからの時代のやり方だなと感じた。基本的には下川町の立案者の方々が直接近隣の町に出向いていって、青年部や若い人たちに対して一緒にやろうと持ちかける進め方だった。上は中川町から下は和寒町まで、名寄市が「太陽」で、他の市町村には星の名前がついて、例えば下川町だったら万里長城の形から「射手座」になったり。そのとき自分が非常にいいなと思ったのは、下川町が前面に立って目立つのではなく、黒子の役回りを目指していたこと。

黒子の役回りで広域連携をしようというのは「やり方」だとして、その「目的」は何だったのですか?

それは点から線、線から面だね。点だけじゃ弱いよね、だったら線になろう、線じゃ弱いよね、じゃあ面になろうっていうことでの広がりね。北の星座共和国として各市町村持ち回りで会合を続けて、最終回を下川町でやったとき、当時青年部部長だった自分は「点から線、線から面になったから今後は違う発展的な形で連携することになるのでしょうね」と言い、締めたんだよね。

イマダカラ
そんな今だから下川町に住む理由って三津橋さんから見てどうでしょう?

僕はこの町で生まれ育ったから良くなってほしいし、いい町であってほしいと思っている。「いい町ですよ」「だから住んでください」というより、ここで生活しているから、良い町になってほしいっていう順番ね。

では、下川町での生活を選ぶ理由は何だと思いますか?

やっぱり一番には、昔と比べて社会全体が幅広い選択肢を認めてくれるようになったこと。厳しい仕事をするのも一つの生き方だし、こうしてゆったりとした時間の中でも暮らしが成り立つのだとしたら、それもまた一つの生き方。今は、後者の暮らしが成り立つ道がたくさんできつつあって、いろんな人がいろんな暮らしをできる時代になったのよ。若い人も、昔みたいに学力を上げていい大学に行ってちゃんとした会社でサラリーマンになって家庭を持ってっていう価値観から離れてきたよね。田舎でも良い、むしろ田舎が良いと思って来る若者も多いしね。

そういう若者は三津橋さんから見てどう映りますか?

経済的な豊かさじゃない部分を求める人たちは好きだよ。応援は当然したい。地域のためを想って新しいチャレンジに取り組もうとしている若者に対し、少しでも“スキ(隙)のある” (タウンプロモーション推進部Instagramのテーマ)というか、余裕を持てる者が、手助けしてやる。それが今の我々の役目だと思っているよ。

コレカラ
そんな若者たち、これからの10年下川町を盛り上げるである人たちに、どんなことを期待しますか?

期待はそんなにしてないな。いてくれればいいから。彼らが下川町に居続けることができるように、お手伝いはするけどその先は彼らが頑張ることになる。若い頃にはなんとかなっても家庭を持つとなると、子育てっていう次の壁ができて、教育とか新しい課題を抱えるわけで。それを乗り越えて、この町に居続けて欲しいと思うから、そのために行政も含めた地域の人たちがどうやってそういう場所を作っていくかが大事だね。例えば田舎と都会の教育格差をなくすこと。町に住む全ての人のために、そういう問題を乗り越えなければ田舎の町はきっと無くなる。

なるほど。そう考えると「これからの10年下川町を盛り上げる人たち」には、若者が安心して生活できる環境を整える年配の人たちも含まれてきますね。

基本的には若い人が何かやろうとしている姿は、年寄りは助けたくなるんだ。僕は60代になってからやりたいことが増えてきた。余裕のある人たちが、余裕のない人たちのぶんも含めて考えていかなきゃいけないんだ。立場があるってことも責任があるし、余裕があるってことも責任があるんだ。

ココカラ
下川町から、どんなライフスタイルや取り組みが普及して欲しいと思いますか?

人それぞれ興味があることや方向性が違うから、自分のやりたいことをきちんとやっていける町、目標を表明したときに仲間が集まってきてくれる、あるいは一人でやろうとしてもやれるような町だといいなと思う。それは多様性というか、いろんな価値観があればあるほど、正しい方向に行くんじゃないかな。いろんな価値観の人たちが話し合って、その価値観がどこかで繋がって、どこかで寄り添っていければいいよね。それが民主主義の根本だよね。

時間がかかる作業ですね。でも確かに小さいコミュニティだからこそ、日常の集まりで価値観の違う人たちと意見を交わす機会が結構ありますよね。

そう。例えば、今年酪農の共同経営団体が大きな投資をして事業拡大をすることになるんだけど、それは最近湧き上がった話じゃなくて、ずっと酪農家の人たちが今やりたい、今できないっていろんな議論をしてきて、乳価や子牛の値段が高くなった今、時流に乗ったから実現するんだ。まちづくりに関しても、同様に時間をかけた話し合いをして、煮詰めていく作業が求められている。これを若い人がやっていけるようになると、きっとどこかで爆発してインパクトの強いことができるよね。