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だれもが物々交換をしているような、
そんな地域と自然と経済を生み出したいんです。

Profile

小峰 博之

41歳 新聞記者
福岡県出身 1998年移住


「これ、どうぞ。今日のおやつです。妻が作ったのでみなさんも食べてください」 そう言って差し出されたのは、ヨモギの蒸しパン。小麦粉は下川産、ヨモギは近くの山から。家でのおやつは基本的に、地元食材を使った奥様の手作りだという。小峰さんが埼玉県から移住してきたのは20年前。生きていくために、幸せな人生のために、本当に必要なものは一体なんなんだろう。その問いと実践を繰り返す小峰さんが、いま下川で見ている世界はどんなものなのか。

interview:2017年7月

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小峰 博之

新聞記者 福岡県出身

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生きていくうえで、本当に必要なものを手に入れたい

10代後半、自分の生き方についていろいろと模索していたときに、「アメリカ留学後にエミュー(ダチョウのような鳥)を連れて、北海道に移住した」という近所のお兄さんの話を聞いて、移住を決めました。1か月後にはバックパック一つで、下川町に住み始めた彼を訪ねて。家族や周りから見ると突然でしたし、みんなすぐに帰ってくると思っていたようですが、僕にとってはそんなに突拍子もない話ではなかったんです。受験勉強ばかりの高校で「何のために勉強するんだろう?」と悩み始め、卒業後もその問いを何年も持ち続けた結果です。 移住後はエミューの世話を手伝う代わりに食べ物と寝る場所をいただき、近所の高齢者の畑仕事を手伝って野菜をお礼にもらうなどして、生活を始めました。生きていくうえで本当に必要なものは、お金ではなく「食べ物や生活に必要なものを自分で創り出すこと」だと思い、自給農業にも興味を持っていましたので、下川町は想いを実践する理想的な場所でした。

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山菜採りで食卓に並ぶ食材の調達

小峰さん所有の森から夕食の食材の調達をおこなうことも

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新聞記者のお仕事

町内の日々の出来事や多くのイベントなど幅広い取材を行う

物々交換で見えてくる、地域の中での自分の仕事

その後、家や納屋を人づてに紹介してもらって住まわせてもらいながら、エミュー事業の共同経営を始め、朝はエミューの世話、夜は温泉施設で働いていました。日中は地域のおじいさんたちと桜を植えたり、地元小学校の行事やクラブ活動に参加したりとボランティアをしていました。自家菜園で作った野菜を必要なものだけ残して近所におすそわけし、お礼に別の野菜をもらう。もらいすぎたら他の人にあげ、別のものが手に入る。お金も資格も持たずに移住してきた僕にとってボランティアは生きていく術でした。 帯広出身で札幌に住んでいた彼女と結婚することになって、彼女に「準備は必要ないよ。来れば必ず仕事があって、生きていけるから」と何度も言ったのですが、なかなか理解してもらえませんでした(笑)。丁寧にお礼をしあいながら、物々交換で地域の絆をつなげていくと、地域の中で自分がやるべき仕事が見えてきて、舞い込んできます。 妻はいま、週に1~2日ほど町の図書室で働いていますが、稼ぐのが目的ではなく本が好きだから。彼女も僕も「暮らし」を重視していますので、地元の食材を工夫して食事をつくったり、作物を育てたりすることに時間を割いています。僕は現在、新聞記者として働いていますが、これも稼ぎたかったからというよりは、地域の人たちから「下川支局の存続のために」と依頼されたのがきっかけです。

小峰さんの一日

ON

06:00 起床、馬の調教運動・乗馬・手入れ
08:00 朝食
09:00 町内の取材へ
11:00 記事を書き、原稿を入稿
12:00 家で奥様と昼食
13:00 森で山菜を採ってくる
14:30 町内を巡回しながら取材
16:00 馬の世話
18:00 夕食
18:30 イベントの取材に
20:00 家に帰ってきて記事を書く
23:00 就寝準備、就寝

OFF

06:00 起床、馬の調教運動・乗馬・手入れ
08:00 朝食
09:00 奥様と一緒に自分の所有する森を散歩。白樺樹液を採取
12:00 森の中で昼食
13:30 家に帰ってきて馬の世話
15:00 庭作業(薪切り)
16:00 地元の会合の取材に
17:00 家に帰ってきて記事を書く
19:00 夕食を食べながらゆったりとすごす
23:00 就寝
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そこで生きている人に必要なものが、きちんとある

記者となって支局を存続するには、住んでいた森のふもとの集落から街中に引っ越さなくてはならなく、そのタイミングで森を買いました。森は人間の暮らしに必要なものを育ててくれ、人を生かしてくれるフィールドです。僕にとっては街中よりも森のふもとのほうが断然住みやすいんですよ。春には山菜を採り、夏には夏野菜、秋には木の実やきのこ。冬にはハンターに鹿を狩猟してもらい、それを自分で解体して保存する。保存食がなくなってきたなと思ったら、雪が解け山菜が出始める。 この生活を続けていて感じるのは、その時・その場所で採れるものを食べられれば十分だということ。そこで生きている人に必要なものが、その時・その場所にはあります。自然と共存して大事にすれば、豊かに生きていけるという実感があります。 仕事も近いかもしれません。「仕事がないから移住できない」とよく耳にしますが、仕事があるからそこに住むのではなく、そこに住むから仕事が生まれるんです。 住むことによって自分の役割が生まれ、やりたいことや好きなことと、人から求めているものが重なり、仕事が生まれる。まず住んでみること、そして人とのつながりを丁寧に創っていくことが大切です。食べ物も仕事も、そこに住んでいる人のために、きちんと存在しています。

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「変わり者」から、未来をつくる仲間とともに

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現在は、太陽光発電と薪でエネルギーも自給し、身の回りのものを大切にして、必要なものを作り出して生活する、8割は自給自足・地産地消する生活です。3年前からドサンコ(北海道和種馬)も飼い始めました。地元のサイクリストたちが自転車で散歩する「ポタリング」に、ドサンコと一緒に参加してるんです。糞が落ちたらみんなで拾ってフォローしあいながら行きます。お年寄りから子どもまでみんなに人気で、新しいつながりも生まれていて、馬がいる・馬と共存する生活が僕たちをまた豊かにしてくれています。 現在は記者として仕事をしながら地域の可能性を学び、生活の基盤を整えているところです。いまはそのためにお金も必要ですが、ゆくゆくは地域の中でだれもが物々交換しているような、お金も地域の中で循環していくような、そういった経済の流れを生み出していきたいと思っています。 そして、その可能性も高まってきているんです。20年前には、僕のような考え方や行動は「変わり者」として扱われていましたが、最近は近い価値観を持っている人が増えてきました。自分だけではできなかったこともできるようになり、なんというか、みんなで作っていく感覚があるんです。とても楽しいし、うれしいですよね。

Text:Rie Kuroi Photo:seijikazui / Misaki Tachibana

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栗岩 英彦

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