旅をしたら、地元の名産が食べたいでしょう
下川ならではの店をやりたかったんです。

Profile

南 匡和

39歳 飲食店経営
北海道札幌市出身 2001年移住


「どうぞ、いらっしゃいませ」 開店前の忙しい時間、私たちが訪れると、仕込みの途中だったのか白い前掛けを外しながら調理場から出てきてくれた。網走や京都で料理人として働いてきた南さんが、ちょっとしたきっかけで下川にたどり着き、うどん屋を始めるまでのストーリー。そこには気負わずに飄々と、しかし丁寧に仕事を続ける南さんの姿がある。「下川にきたら、やっぱり名産のうどんが食べたいでしょう」というやさしい言葉に、どっしりとした安定感が見え隠れした。

interview:2017年10月

南 匡和

飲食店経営 北海道札幌市出身

店をやりたいと言い続けると、舞い込んできた

下川町に来たきっかけは、兄なんです。当時、兄が下川で友人とエミュー(ダチョウのような鳥)を育てて販売する会社をやっていて、「下川はうどんが名産なのにうどん屋がないから、お前やらないか」って声をかけられて。 その時は京都の料理屋で調理人をしていましたが、それじゃあということで移住してきました。最初はエミューの会社の手伝いをしていましたが、その後、五味温泉で調理人として働き始めて。将来は居酒屋をやりたいと思っていたので、ホールもやらせてほしいとお願いをして、少しずつ町の人たちに顔を売っていきましたね。 今の店舗は2年前に移転してきたのですが、前の店はカウンター4席にテーブル2つの小さな店で、2005年にオープンしました。五味温泉で働いていた時に「店をやりたいんだよね」といろんな人に話していたら、友人から「昔ラーメン屋だった物件があるから、とりあえず見てみたら」と紹介してもらって。小さいし古いかなと思ったのですが、まずはここからやってみようと始めてみたら、あっという間に10年近く経っていました。

夜の部では日本酒の品揃えも豊富

カウンター越しにお客さんとの会話をたのしむ南さん。

下川特産の手延べ麺

下川町の良質な小麦を使う手延べ麺。特有のツルツルした喉越しは格別です。

「下川でないとできない店」をやりたかった

たしかに人口も少ない街ですが、飲食店をやることに対して不安はあまりなかったんです。下川の名産であるうどんを扱うと決めていましたから。やっぱり旅をしたり、遊びにいったりしたら、その土地のものを食べたいじゃないですか。町民だけでなく、外から来る人もターゲットに入っていたので、あまり心配せずに始めましたね。もともとは居酒屋をやりたかったんですが、居酒屋はほかにもあるし、どうせやるなら下川ならではのお店をやりたくて。昔はうどんよりも蕎麦派だったんですが、京都時代に店の仲間と毎日のようにうどんを食べていて、少しずつ好きになってたんですよ。なにが幸いするかわからないですね(笑) そして、そろそろこの小さな店にも飽きてきたな、新しいこと始めたいなと思っていた時に、今の店舗の持ち主から「うちの空き店舗でやらないかい」と声をかけてもらいました。移転したいことを誰かに言っていたわけではなかったのですが、本当にいいタイミングで。不思議ですよね。

南さんの一日

ON

07:00 起床
07:30 店に出て仕込み
11:00 開店
14:00 閉店、後片付け
15:00 帰宅、家の片づけなど
17:00 夕食づくり
18:00 帰宅した妻と夕食
20:00 のんびり
24:00 就寝

OFF

07:00 起床
07:30 とりあえず店に行って仕込みなど
12:00 帰宅して、名寄へ買い物へ
14:00 そのまま旭川へ遊びに
18:00 下川町の寿司屋「鮨正」で友人と飲む
25:00 就寝

意外に不便に感じない街と、あたたかい人たち

札幌で生まれて、仕事で網走・京都と住んでいたので、下川だと田舎すぎない?と聞かれることもあるのですが、あまりそれは感じないです。札幌も意外に近いなと思っています。冬の過ごしやすさは札幌よりもいいかもしれないですね。除雪がしっかりしてるし、バスが遅れないことに本当に衝撃を受けました(笑)。そうそう、最初に下川に来たときはアイスキャンドルフェスティバルをやっていたのですが、その美しさも格別で、これもまた札幌よりもすごいなと。そのフェスティバルの関係者の打ち上げに誘ってもらって、すぐに友達ができました。元気がいいおもしろいメンバーがたくさんいるからと、商工会青年部に入ってそこでも仲間ができて。人間関係や友人づくりにはまったく苦労しなかったです。移住してくる人も多いので、刺激になりますよね。田舎だったとしても、これだけ新しい人たちが来てくれたら、つまらなくならないですよ。

下川のうどんを、もっとたくさんの人に知ってもらいたい

20年ごとに目標を立ててるんです。なので、40までに60歳までの目標を考えなきゃなと思っています。20歳の時に立てた目標は「自分の店を持つこと」。これからの20年はどんな風になりますかね…。漠然と、もっと下川のうどんをたくさんの人に知ってもらいたいなとは思います。実は、うどんのイベントって全国各地で開催されていて、僕も年に1回は道外のイベントに出るようにしています。観光協会も積極的に全国の宣伝に動いてくれて、他のうどん産地や名店とつながりができてきました。「うどんサミット」というイベントに昨年出たのですが、人気投票の結果は5位。そうやって一緒に動いてくれる仲間のためにも、日本中に下川の手延べうどんを知ってもらうためにも、なんとか全国1位になりたいですね。

Text:Rie Kuroi Photo:seijikazui

移住者へのインタビュー

「ここは他の地域と違う」という直感を信じて

2024.3

下川町は、たまたま流れ着いて気づいたら何年も住んでいるという方が、決して珍しくない気がします。徳間さんも、そのひとり。...

徳間和彦(とくま かずひこ)

1957年釧路市生まれ 2007年 移住

Read more...

誰にも縛られず、できることから始めよう

2023.10

住む場所を決める基準は、人それぞれ。血縁者がいたり、好きな風景があったり、お気に入りの店があったり、...

塚本あずささん

アロマセラピスト埼玉県出身 2019年移住

Read more...

いつのまにか“しっくりくる暮らし”にたどり着いた

2023.07

筆者が下川町に移住し、まだ数日しか経っていない頃。「美桑(みくわ)が丘」と名付けられた森で、薪小屋を作るワークショップがあると聞き、...

成田菜穂子さん

NPO法人森の生活 東京都出身

Read more...

楽しいことを見つければ 、人も未来もつながっていく

2023.03.29

「「新しいことを始めるのに、遅すぎることなんてない」。口で言うのは簡単です。年齢にかこつけて「今更やっても仕方ない」...

尾潟 鉱一さん

大阪府出身 1984年移住

Read more...

下川は、都会とは違うスイッチが入る町

2023.03.29

「人には、風の人と土の人がいる」という話を聞いたことがあります。ひとところに留まり、その土地での暮らしを味わい根を張る覚悟を持つ人...

吉岡芽映さん

北海道上士別市出身 2020年9月移住

Read more...

型にはまらずやってみよう納得感のある暮らしを求めて

2022.03.29

新型コロナウイルスの蔓延による、あらゆる行為の自粛は、私たちの暮らしを見直す、忘れられないきっかけの一つになりました。...

山本菜奈さん/林将平さん

神奈川県出身 東京都出身

Read more...

下川町に来てから、自分の世界が広がった

2022.03.29

人口の少ない地域での暮らしは閉鎖的、というイメージは、決して珍しくないのではないでしょうか。声優の専門学校に通っていた佐藤飛鳥さんは、...

佐藤飛鳥さん

25歳 埼玉県出身 2017年移住

Read more...

できるだけどんなことにも参加して、地域に恩返しをしたい

2021.11.30

下川町に暮らす女性たちの移住のきっかけは、結婚や転職など人それぞれ。山崎春日さんは下川町の隣町の名寄市で育ち、結婚を機に...

山崎春日さん

45歳 新聞屋、ラジオパーソナリティ

Read more...

いつも誰かが、楽しい道へ導いてくれる

2021.3.25

下川には、手作りが好きな女性たちが作品を持ち寄り、イベント出展などをする「森のてしごとや」という有志のグループがあります...

橋本光恵さん

橋本光恵 44歳 旭川市出身

Read more...

活かしあうつながりのなかで“生産”する暮らしを

2021.1.11

筆者が下川に移住する前、「モレーナ」店主・栗岩さんの記事を、何度も読みました。絵を描きながら海外を旅して、...

富永夫妻

富永紘光 2012年移住 /宰子 2017年移住

Read more...

持続可能な社会を目指して、下川町にたどり着き暮らし続ける理由

2020.6.1

取材をしたのは、2020年3月末。コロナウイルスの感染拡大による自粛要請が、日本各地へ広がり出した、ちょうどその頃です...

奈須憲一郎

46歳 1999年移住 愛知県名古屋市出身

Read more...

自分の気持ちに正直に、ていねいな暮らしを目指して

2019.12.20

生活の中の「今の暮らし、しっくりこないな」という違和感は、時折心の片隅に一筋の煙のように立ち上がってきます...

藤原佑輔

35歳 札幌出身 2017年移住

Read more...

会社と家を往復する忙しさを脱し、農業の道へ

2019.9.30

「子牛、見ていきますか?」と誘われて牛舎に入ると、かわいらしい子牛たちが私たちを見上げ、近づけた手をぺろりと舐めた...

吉田公司

58歳 網走市 2009年移住

Read more...

暮らしと経営、長く続けられる酪農業を

2019.9.20

「子牛、見ていきますか?」と誘われて牛舎に入ると、かわいらしい子牛たちが私たちを見上げ、近づけた手をぺろりと舐めた...

豊田さんファミリー

2014年移住

Read more...

野生に返れる楽しさ、川の魅力を伝えたい

2019.6.11

「小学校1年生のときの文集で『北海道で自然ガイドをしたい』って書いてたんですよね」。その夢がいま、叶ってるんです、と嬉しそうに話す...

園部峻久

2018年移住

Read more...

50年以上愛されてきた卵を通して、新しい幸せを

2019.4.2

「楽しみは、自分で探さないとね」と村上さんがつぶやくと、能藤(のとう)さんはふっと笑った。50年以上の歴史がある「阿部養鶏場」を札幌の...

あべ養鶏場

2016年移住

Read more...

素直に飾らずに暮らせるのがいいんです

2019.3.25

雪にめがけて走り出した息子さんをやさしい眼差しで見守りながら「この子は下川生まれですからねぇ」とつぶやいた。...

高松峰成/慧

2016年5月移住

Read more...

仲間とともに「家具乃診療所」を始めたい

2018.11.19

「一の橋に来てから、人のことを『人間』って言うようになったんですよね」。 木屑が雪のように降り積もる工房の中で、河野さんは「なんでだろう」...

河野文孝

41歳 埼玉県川越市 2016年移住

Read more...

自ら何かを生み出し、恩返しもしていきたい

2018.10.26

「このあいだ作ったフサスグリのジュース、飲んでみます?」 真っ青な空と、緑が映える木々をバックに、「cosotto, hut」は、まさに「こっそりと」...

山田香織/小松佐知子

山田さん福島県出身/小松さん岩手県出身

Read more...

小さいころに食べた下川のおいしいフルーツトマトを作りたい

2018.8.24

研修ハウスで今年から始めたフルーツトマトを眺めながら、直紀さんが「これはちょっと難しい品種で、まだまだうまくいかないんですよね...

睦良田 直紀/まい子

名寄市出身2017年に移住

Read more...

物事を俯瞰する。意志にとらわれすぎず生きていきたい。

2018.5.21

「最近は・・・なんだか落ち着かないですねぇ」 麻生さんはゆったりとした口調でそう言いながら木のカップにコーヒーを注ぎ、...

麻生翼

NPO法人代表理事 愛知県出身

Read more...

誰もやったことのない表現や技術で作品をつくりたい。

2018.2.26

撮影に伺った日は、ちょうど下川神社に奉納する干支のチェンソーアートを制作中だった児玉さん。親子のオオカミの形をした作品を見せてくれた。...

児玉(木霊)光

チェンソーアーティスト 愛媛県生まれ

Read more...

minami

旅をしたら、地元の名産が食べたいでしょう。下川ならではの店をやりたい

2017.11.2

「どうぞ、いらっしゃいませ」 開店前の忙しい時間、私たちが訪れると、仕込みの途中だったのか白い前掛けを外しながら調理場から出てきてくれた...

minami

南 匡和

飲食店経営 札幌市生まれ

Read more...

komine

夢見てきた田舎暮らし。健やかでおいしいトマトを一生つくり続けたい。

2017.08.10

「この箱詰めが終わるまで、ちょっと座って待っててくれる?」訪れた私たちをちらっと目視したあと、笑顔のままで目線を手元に戻しつつ...

komine

中田 豪之助/麻子

東京都出身 2005年に移住

Read more...

komine

だれもが物々交換をしているような、地域と自然と経済を生み出したい

2017.07.11

「これ、どうぞ。今日のおやつです。妻が作ったのでみなさんも食べてください」そう言って差し出されたのは、ヨモギの蒸しパン。

komine

小峰 博之

福岡県生まれ 1998年に移住

Read more...

森の恵みを作品にする。「つくる」という人生を送りたい

2017.03.24

このあいだ、町役場から連絡が来て。町有林で出たパルプ材の中で欲しい木があったら、森に来て印をつけといてって言われてね。

usuda

臼田 健二

静岡県出身 2015年に移住

Read more...

スポーツ、健康、医療、福祉。下川だからできる連携を生み出したい

2017.03.10

「あ、雪が降って来たねぇ。じゃあ、外に行ってみようか?」 和也さんの声に、待っていましたとばかりに「うん!」と答える娘さん...

takemoto-002

竹本 和也/竹本 礼子

2008年に移住

Read more...

visual-interview-03

終わりのない、答えのでないものを、ずっと考え続けていきたい。

2016.12.30

北海道に憧れて、大学卒業後に北海道新聞の記者として移住してきた荒井さん。道内を飛び回る充実した日々の中で、ふつふつと沸いてくる...

荒井 友香

茨城県出身 2015年に移住

Read more...

visual-interview-02

森のあるライフスタイルを、私たち自身が体現していきたいんです。

2016.12.22

二人が出会ったのは2004年。すでに下川に移住していた大輔さんの勤め先である下川町森林組合に、真理恵さんが興味を抱いて...

田邊大輔/真理恵

2004年に移住/2007年に移住

Read more...

旅をして、自然の中で暮らす。自分のやりたいことをやると決めたんです。

2016.11.10

下川に移住を決めたのは、世界一周の旅の最中でした。もう5年も終わりのないような旅をしていたのですが、日本に帰ろうと思って。

_mg_7687

栗岩 英彦

静岡県出身 1991年に移住

Read more...