会社と家を往復する忙しさを脱し
未経験から農業の道へ

Profile

吉田 公司

58歳 農家
北海道網走市出身 2009年移住


「この食べ方、知ってる?とっても美味しいの」と妻の眞由美さんが、採れたてのスイートコーンを手渡してくれた。皮を1枚残したままで湯気があがっている「とうきび」(北海道でのとうもろこしの呼び名)は、目を見開くほど甘くておいしい。これだけおいしいスイートコーンを作りながら「うちはトマトがメインだから、遊びでやっているような感じだけどね」と話す吉田さんの笑顔は農家そのもの。就農から10年目を迎えた吉田さんの、農業と下川との出会いとは。

interview:2019年9月

吉田 公司

農家 北海道網走市出身

職場と家の往復なら、どこに住んでも変わらない

下川に来る前は塾で働いていたんです。小中学生を中心にした塾で、教えるだけではなく営業もやっていました。塾講師になったのは、なんてことない、友人に誘われたから。大学卒業後に、塾講師になったという友人が新車に乗って遊びにきて「人が足らないから一緒にやらないか」って。その車がうらやましくてね(笑)。

それから、北海道も含めていろんな場所で塾の立ち上げや講師として働いてました。昔は、都会へのあこがれもあり、北海道は活気がない感じがして嫌だったんですよ。忙しい方が充実感があって好きで。でも、職場と家の往復を繰り返していると、こうやって同じ仕事をしている限り、どこに住んでいても変わらないなと思い始めました。

そんなとき、たまたま見つけた農家さんのブログがおもしろくて。網走時代も父親の世代がみんな離農して札幌に行っちゃったのを見てましたし、農業はきつくて大変、金にならないと思ってたので、農家になりたいなんて、考えたこともありませんでした。でもそのブログでは、もともと優秀なビジネスマンだった方が、工業生産的な手法も取り入れたりと、いろんな新しいことにチャレンジしていて、イメージが変わったんです。農業は、やり方によっていろいろできるんだ、おもしろそうだなと。

甘くておいしいとうきび

ご夫婦二人三脚で

手探りで始めた農業。毎年毎年、勉強でおもしろい

それから就農支援などをしている団体に相談にも行ったりしましたが、40歳を超えていたので、就農サポートが受けられない自治体が多く、決めかねていました。そんな中で下川は年齢制限が55歳と高く、問い合わせてみると「一度来てみるといいですよ」とお誘いいただいて。2008年に初めて下川に来ました。

下川はハウス栽培が盛んだというのも、その時に知りました。新規就農の先輩方のところに見学にいって感じたのは、いわゆる北海道的な大規模農業ではなく、ハウス栽培を中心に小面積で、生産性を高めている農家さんが多いということ。

その後、話がとんとん拍子に進んで、農村活性化センター「おうる」で宿泊しながら就農体験研修からスタート。その後、町の新規就農予定者となって研修受け入れ農家さんの下で、足掛け2年の実地研修の後、独立して今に至ります。

いろんな偶然が重なって急でしたし、未熟なままにスタートさせたので、作付けも手探りで。今はハウス9棟のうち8棟がトマトですけど、最初はトマトをメインにする予定じゃなかったんですよ。フルーツトマトなんて自分の力量じゃできないと思ってましたし。それでも、収支なんかいろいろ考えるとトマトが優秀で、試しに作ってみたら、おいしくできてね。いろんな人たちがサポートしてくれたおかげです。先輩方も言っていますが、農業は毎年毎年、勉強です。おもしろいですよ。

吉田さんのー日

On

05:30 起床、トマトの手入れ、水やり
07:00 朝食
07:30 トマトの収穫
12:00 昼食と休憩
13:30 トマトの収穫
15:00 規格や色などに合わせて選別、出荷 
19:00 夕食
22:00 就寝

OFF

07:00 起床
07:30 朝食
8:30 冷凍保管のトマトでジャムやソースづくり、除雪など
12:00 昼食
13:00 近所を散歩
14:00 ネットでコンサドーレ情報のチェック
16:00 読書、家事、ジャム、ソースづくりの続きなど
18:00 夕食
22:00 就寝

自分から飛び込まなくてもできる、あたたかい人間関係

私たちの住んでいる上名寄地区は、農家ばっかりで、みんな親戚みたいな関係性です。「上名寄郷土芸能保存会」という会があって、ちょっと見学にいったら、自動的に加入したことになっていた(笑)。この歳になって踊るとは思いませんでしたが、人とのつながりができる場ですし、楽しいですね。

忘年会や新年会、焼肉、祭り、農協関係の集まりなど、なんだかんだで近所の人や農業関係者と顔を合わせる機会は多くて助かります。都会だと、自分から飛び込んでいかないといけないでしょう?こっちはそれが必要ないんですよね。わずらわしさよりも、うれしさのほうがずっと大きいです。

酪農家も含め、下川の新規就農家庭の新年会があるんですけど、最初は3家族の6人くらいから始まって、いまはどんどん増えていって、約40人。こんな風に気軽に話せる家族ぐるみの仲間がいるのもありがたいですね。

Text:Rie Kuroi Photo:Seiji Kazui

移住者へのインタビュー

「ここは他の地域と違う」という直感を信じて

2024.3

下川町は、たまたま流れ着いて気づいたら何年も住んでいるという方が、決して珍しくない気がします。徳間さんも、そのひとり。...

徳間和彦(とくま かずひこ)

1957年釧路市生まれ 2007年 移住

Read more...

誰にも縛られず、できることから始めよう

2023.10

住む場所を決める基準は、人それぞれ。血縁者がいたり、好きな風景があったり、お気に入りの店があったり、...

塚本あずささん

アロマセラピスト埼玉県出身 2019年移住

Read more...

いつのまにか“しっくりくる暮らし”にたどり着いた

2023.07

筆者が下川町に移住し、まだ数日しか経っていない頃。「美桑(みくわ)が丘」と名付けられた森で、薪小屋を作るワークショップがあると聞き、...

成田菜穂子さん

NPO法人森の生活 東京都出身

Read more...

楽しいことを見つければ 、人も未来もつながっていく

2023.03.29

「「新しいことを始めるのに、遅すぎることなんてない」。口で言うのは簡単です。年齢にかこつけて「今更やっても仕方ない」...

尾潟 鉱一さん

大阪府出身 1984年移住

Read more...

下川は、都会とは違うスイッチが入る町

2023.03.29

「人には、風の人と土の人がいる」という話を聞いたことがあります。ひとところに留まり、その土地での暮らしを味わい根を張る覚悟を持つ人...

吉岡芽映さん

北海道上士別市出身 2020年9月移住

Read more...

型にはまらずやってみよう納得感のある暮らしを求めて

2022.03.29

新型コロナウイルスの蔓延による、あらゆる行為の自粛は、私たちの暮らしを見直す、忘れられないきっかけの一つになりました。...

山本菜奈さん/林将平さん

神奈川県出身 東京都出身

Read more...

下川町に来てから、自分の世界が広がった

2022.03.29

人口の少ない地域での暮らしは閉鎖的、というイメージは、決して珍しくないのではないでしょうか。声優の専門学校に通っていた佐藤飛鳥さんは、...

佐藤飛鳥さん

25歳 埼玉県出身 2017年移住

Read more...

できるだけどんなことにも参加して、地域に恩返しをしたい

2021.11.30

下川町に暮らす女性たちの移住のきっかけは、結婚や転職など人それぞれ。山崎春日さんは下川町の隣町の名寄市で育ち、結婚を機に...

山崎春日さん

45歳 新聞屋、ラジオパーソナリティ

Read more...

いつも誰かが、楽しい道へ導いてくれる

2021.3.25

下川には、手作りが好きな女性たちが作品を持ち寄り、イベント出展などをする「森のてしごとや」という有志のグループがあります...

橋本光恵さん

橋本光恵 44歳 旭川市出身

Read more...

活かしあうつながりのなかで“生産”する暮らしを

2021.1.11

筆者が下川に移住する前、「モレーナ」店主・栗岩さんの記事を、何度も読みました。絵を描きながら海外を旅して、...

富永夫妻

富永紘光 2012年移住 /宰子 2017年移住

Read more...

持続可能な社会を目指して、下川町にたどり着き暮らし続ける理由

2020.6.1

取材をしたのは、2020年3月末。コロナウイルスの感染拡大による自粛要請が、日本各地へ広がり出した、ちょうどその頃です...

奈須憲一郎

46歳 1999年移住 愛知県名古屋市出身

Read more...

自分の気持ちに正直に、ていねいな暮らしを目指して

2019.12.20

生活の中の「今の暮らし、しっくりこないな」という違和感は、時折心の片隅に一筋の煙のように立ち上がってきます...

藤原佑輔

35歳 札幌出身 2017年移住

Read more...

会社と家を往復する忙しさを脱し、農業の道へ

2019.9.30

「子牛、見ていきますか?」と誘われて牛舎に入ると、かわいらしい子牛たちが私たちを見上げ、近づけた手をぺろりと舐めた...

吉田公司

58歳 網走市 2009年移住

Read more...

暮らしと経営、長く続けられる酪農業を

2019.9.20

「子牛、見ていきますか?」と誘われて牛舎に入ると、かわいらしい子牛たちが私たちを見上げ、近づけた手をぺろりと舐めた...

豊田さんファミリー

2014年移住

Read more...

野生に返れる楽しさ、川の魅力を伝えたい

2019.6.11

「小学校1年生のときの文集で『北海道で自然ガイドをしたい』って書いてたんですよね」。その夢がいま、叶ってるんです、と嬉しそうに話す...

園部峻久

2018年移住

Read more...

50年以上愛されてきた卵を通して、新しい幸せを

2019.4.2

「楽しみは、自分で探さないとね」と村上さんがつぶやくと、能藤(のとう)さんはふっと笑った。50年以上の歴史がある「阿部養鶏場」を札幌の...

あべ養鶏場

2016年移住

Read more...

素直に飾らずに暮らせるのがいいんです

2019.3.25

雪にめがけて走り出した息子さんをやさしい眼差しで見守りながら「この子は下川生まれですからねぇ」とつぶやいた。...

高松峰成/慧

2016年5月移住

Read more...

仲間とともに「家具乃診療所」を始めたい

2018.11.19

「一の橋に来てから、人のことを『人間』って言うようになったんですよね」。 木屑が雪のように降り積もる工房の中で、河野さんは「なんでだろう」...

河野文孝

41歳 埼玉県川越市 2016年移住

Read more...

自ら何かを生み出し、恩返しもしていきたい

2018.10.26

「このあいだ作ったフサスグリのジュース、飲んでみます?」 真っ青な空と、緑が映える木々をバックに、「cosotto, hut」は、まさに「こっそりと」...

山田香織/小松佐知子

山田さん福島県出身/小松さん岩手県出身

Read more...

小さいころに食べた下川のおいしいフルーツトマトを作りたい

2018.8.24

研修ハウスで今年から始めたフルーツトマトを眺めながら、直紀さんが「これはちょっと難しい品種で、まだまだうまくいかないんですよね...

睦良田 直紀/まい子

名寄市出身2017年に移住

Read more...

物事を俯瞰する。意志にとらわれすぎず生きていきたい。

2018.5.21

「最近は・・・なんだか落ち着かないですねぇ」 麻生さんはゆったりとした口調でそう言いながら木のカップにコーヒーを注ぎ、...

麻生翼

NPO法人代表理事 愛知県出身

Read more...

誰もやったことのない表現や技術で作品をつくりたい。

2018.2.26

撮影に伺った日は、ちょうど下川神社に奉納する干支のチェンソーアートを制作中だった児玉さん。親子のオオカミの形をした作品を見せてくれた。...

児玉(木霊)光

チェンソーアーティスト 愛媛県生まれ

Read more...

minami

旅をしたら、地元の名産が食べたいでしょう。下川ならではの店をやりたい

2017.11.2

「どうぞ、いらっしゃいませ」 開店前の忙しい時間、私たちが訪れると、仕込みの途中だったのか白い前掛けを外しながら調理場から出てきてくれた...

minami

南 匡和

飲食店経営 札幌市生まれ

Read more...

komine

夢見てきた田舎暮らし。健やかでおいしいトマトを一生つくり続けたい。

2017.08.10

「この箱詰めが終わるまで、ちょっと座って待っててくれる?」訪れた私たちをちらっと目視したあと、笑顔のままで目線を手元に戻しつつ...

komine

中田 豪之助/麻子

東京都出身 2005年に移住

Read more...

komine

だれもが物々交換をしているような、地域と自然と経済を生み出したい

2017.07.11

「これ、どうぞ。今日のおやつです。妻が作ったのでみなさんも食べてください」そう言って差し出されたのは、ヨモギの蒸しパン。

komine

小峰 博之

福岡県生まれ 1998年に移住

Read more...

森の恵みを作品にする。「つくる」という人生を送りたい

2017.03.24

このあいだ、町役場から連絡が来て。町有林で出たパルプ材の中で欲しい木があったら、森に来て印をつけといてって言われてね。

usuda

臼田 健二

静岡県出身 2015年に移住

Read more...

スポーツ、健康、医療、福祉。下川だからできる連携を生み出したい

2017.03.10

「あ、雪が降って来たねぇ。じゃあ、外に行ってみようか?」 和也さんの声に、待っていましたとばかりに「うん!」と答える娘さん...

takemoto-002

竹本 和也/竹本 礼子

2008年に移住

Read more...

visual-interview-03

終わりのない、答えのでないものを、ずっと考え続けていきたい。

2016.12.30

北海道に憧れて、大学卒業後に北海道新聞の記者として移住してきた荒井さん。道内を飛び回る充実した日々の中で、ふつふつと沸いてくる...

荒井 友香

茨城県出身 2015年に移住

Read more...

visual-interview-02

森のあるライフスタイルを、私たち自身が体現していきたいんです。

2016.12.22

二人が出会ったのは2004年。すでに下川に移住していた大輔さんの勤め先である下川町森林組合に、真理恵さんが興味を抱いて...

田邊大輔/真理恵

2004年に移住/2007年に移住

Read more...

旅をして、自然の中で暮らす。自分のやりたいことをやると決めたんです。

2016.11.10

下川に移住を決めたのは、世界一周の旅の最中でした。もう5年も終わりのないような旅をしていたのですが、日本に帰ろうと思って。

_mg_7687

栗岩 英彦

静岡県出身 1991年に移住

Read more...