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旅をして、自然の中で暮らす。
自分のやりたいことをやると決めたんです。

Profile

栗岩 英彦

73歳 レストラン「モレーナ」経営
静岡県出身 1991年移住


「・・・今日は風が強いよね。こないだとなりの小屋の屋根が飛びそうになったんで、さっきまで見回りに行ってたんだよ。それにしても、一気に冬がきちゃいそうだね。」 静岡県三島市で生まれ、動物や植物が好きで東京農業大学で学び、卒業後は養蜂を実践・研究する企業に勤めた。独立する前に世界を見てみようと、5年かけて世界1周の旅をしてきた栗岩さんは、下川町に錨を下した。エキゾチックで、ほぅっと心の奥底が整うような不思議な空間に、下川に移住してくる「ヨソモノ」たちは、真っ先に魅せられ、心のよりどころにする。

interview:2016年11月

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栗岩 英彦

レストラン経営 静岡県出身

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動物と自然に囲まれて、旅をしながら暮らしたい

下川に移住を決めたのは、世界一周の旅の最中でした。もう5年も終わりのないような旅をしていたのですが、日本に帰ろうと思って。どこに帰ろうかと考えていたときに、古い友人が住んでいた名寄市を思い出したんです。滞在していたリスボンから「名寄の近郊で、自然が豊かな場所で暮らしたいから探しておいてくれ」と葉書を書いて。「下川に3つほど空き家が見つかったよ」という返事をもらって、下川に来ました。3つの家のうち、この家に即決して暮らし始めました。当時はまだ世界の絵は珍しかったのか、絵を売ったり、個展をして稼いでましたね。あとは、農業の手伝いとかして。でもそのうち絵も売れなくなってきて、どうしようかと思ったときに、ウチのやつが「レストランにしたら」って。こんなところにレストランなんかやって、人なんか来るのかと思ってたけど、まあ、おもしろいかなと思ってさ。

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本場仕込みのインドカレー

こんな山奥でこんな本格的なインドカレーが、と来た人を驚かせる店「モレーナ」。居心地の良さに、数時間滞在するお客さんも。

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旅に出たら、スケッチに絵を描く

世界一周の旅でも、絵を描いて売りながら生活していたという栗岩さん。今も旅先で絵を描くことは欠かさない。

人がやっていないことをやり、新しい文化を創っていく

そこから、友人も巻き込んでみんなでこの家を改修しました。どうせやるなら、人がやっていないことをやりたかったから、カレー屋にすることを決めて。改修やスパイスにこだわって仕入れていたら、オープン日には、通帳には2万円しかなくてね。お客さんがくるかどうか、すごく不安だったけど、ふたを開けてみたら、下川や名寄の人を中心に、洪水のように人が来て。北海道新聞にも取り上げてもらって、見出しは「発想の転換。離農跡でレストラン」。今も覚えています。当時、本場のインドカレーなんて食べる機会がなかったから、残していく人も多かったよ。カレーがスープみたいだから食べなれてないからね。でもそこは妥協しなかったんだ。これは、一つの食文化だから、きちんと紹介したかった。ちなみに、ここのカレーのレシピは、1年間インドで滞在していたときに近所のカレー屋に教えてもらったんだ。代わりに僕はフラメンコギターを教えてあげて。人生の経験って、何がどこで活きるか、わからないよね。

栗岩さんの一日

ON

07:00 起床、犬の散歩、朝食
09:00 店の掃除や仕込み。庭から花を取ってきて活ける。
11:30 開店。合間に先週の十勝の旅のエッセイを書く
14:00 客足が落ち着いたら、家の気になるところを修理。冬に向けての準備
17:00 閉店、明日の仕入れ・買い物
18:00 夕食。お酒を飲みながら、本を読む
23:00 就寝

OFF

07:00 起床、犬の散歩、朝食。洗濯・掃除などの家事
09:00 オホーツクの海へドライブ。
12:00 海を見ながらおにぎりで昼食。歩いたり、石を拾ったり、スケッチしたり。
14:00 近くの温泉へ立ち寄る
17:00 アポロで夕食
19:00 家で映画鑑賞
23:00 就寝
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18歳のとき、自分のやりたいことをやる人生を送ると決めた

今はネット社会だから、この店のマスターが世界中を旅していて、写真や絵があるんだって知って来る人も多いよね。インドネシアに行きたいんだけどどこがいいですか、とか聞かれたりして。最近聞いた、リトアニアに行ったっていう人の話はよかったなぁ。100か国くらい行ってると思うけど、まだ知らない国もあるからね。 そう、僕は18歳のときに結核になって、4年くらいサナトリウムで療養していたんです。仲間がどんどん死んでいく中で、もしここを生きて出ることができるなら、自分のやりたいことをやっていこうって決めたんです。それまでは親の言うことを聞く、割といい子だったんだけど、ここで死んだら、何のために生まれてきたのかわかんなくなるなと思って。退院したら「世界中を歩いてみたい」という子どものころからの夢を叶えようと。だから、旅はぼくにとってとても大切なこと。今も冬には1か月くらい店を休んで旅にでます。

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世界のどんなに素晴らしい土地に行っても、最後は下川に帰ってくる

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下川は、どんどん好きになっていくね。来た直後は、うまくいかなかったらアラスカにでも行こうと思っていたけど(笑)。当時は近所の人がたくさん様子を見に来てくれて、助けてくれたんだけど、その距離感がちょうどよかったんだ。気にかけてくれるけど、干渉してこない。あと、街を歩いている子どもたちがあいさつをしてくれたのも印象に残っているね。子どもが知らない人にきちんとあいさつできる土地っていうのは、いい土地なんですよ。大人の気持ちや姿勢が反映されているってことだから。旅をしていても、そういう土地はついつい長居しちゃうんだよね。僕みたいな旅人にとって「帰ってくる場所」って大切なんです。ここがあるから、旅ができるんです。自分の生きたいように生きると決めて、旅をすること、自然の中で暮らすこと、絵を描いたり文章を書いたり表現することを、どんなに反対されてもやり通してきました。これができるのは、下川で暮らせているから。ここまでやりたいことができたら、人生に悔いはないよね。だから、旅をしていてもふと下川の景色を思い出すときがあります。レストランの裏にある、よく釣りをする川の風景。ああ、またニジマスを釣りたいなって思うんです。

Photo:seijikazui Text:Rie Kuroi

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