橋本光恵さん
橋本光恵さん

いつも誰かが、
楽しい道へ導いてくれる

Profile

橋本 光恵

44歳 児童室職員
北海道旭川市出身 1997年移住


下川には、手作りが好きな女性たちが作品を持ち寄り、イベント出展などをする「森のてしごとや」という有志のグループがあります。そのメンバーの一人でもあり、ご自身でかぎ針編みのアクセサリーを作っている橋本光恵さんは、ハタチの頃、下川にやって来ました。「みっつ」の愛称で親しまれる、おだやかでやわらかい雰囲気を持つみっつさん。人と接することが好きで、ものづくりも好きなみっつさんから、下川での「楽しいことの見つけ方」を教わります。

interview:2020年12月

橋本光恵さん

橋本 光恵

児童室職員  旭川市出身

橋本光恵さん

本当は地元に戻ろうと思っていた

人の役に立つ仕事がしたいと思っていました。でも、それに当てはまる職業、いっぱいありますよね。 「保育士かな? うーん、でも子供と一緒に働いているのは全然想像つかないなー」とか「看護師? いや でも看護大学、今から行ける?」とかいろいろ考えて。取捨選択した結果、お年寄りが好きだったから介 護の仕事にたどり着きました。

もともとは地元で就職しようかなって。けど、通っていた専門学校の先生の勧めで、下川の特別養護老人 ホーム「あけぼの園」の就職試験を受けたら、合格しました。

初めて下川に来た日のことは、今でもよく覚えています。隣の名寄市からバスに乗って見える景色が、ず っと田んぼとか山だけ。やっと明かりが見えたと思ったら、街灯が途切れた、商店街のはじっこが見えて 「小さい町なんだな」と驚きました。

生まれてから一度も旭川を出たことがなかったから、下川で、人生初めての一人暮らしもスタートして。 近所のおじさんやおばさんには、すごく助けてもらいました。仕事が終わって帰ってくる頃には、町内の お店、どこもやってないんですよね。当時はコンビニもなかったし、スーパーは18時で閉まっちゃう し。「缶詰はあるけど、缶切りがない! どうしよう!」みたいな(笑)。お隣に借りに行きました。他にも、除雪がちゃんとできなくて玄関が開けられなかったとき「朝早く起きて、雪ハネしなきゃ駄目だぞ」 って言いながら、隣のおじさんが除雪を手伝ってくれて。その日から、玄関の前に一本道を作ってくれる ようになったんです。今までは実家でぬくぬく暮らしていたから、初めて一人でなんでもやらなくちゃい けない状況で大変だったけど、気にかけてもらえてうれしかったです。

私が就職した「あけぼの園」を含めて、町役場や他の職場に、同期が何人もいたのも、心強かったなあ。 下川に引っ越してきた最初の5年くらいは、「いつか旭川に帰ろう」と思っていたんです。でも、友達が できて、飲み歩いたり遊んだりするようになったら居心地が良くなって。町内のスナック「Fuji」とか 「スワン」に集まって、ミラーボールを回してもらったこともあった(笑)。仲間とか生活の基盤ができ てくるうちに、いつの間にか「帰ろう」っていう思いは、なくなっていましたね。

偶然の誘いを受け、新しい道へ

2006年に、今の夫と結婚しました。同じ介護職で、夫は職場の後輩だったんです。あけぼの園では14年、働いたんですけど、夫にも相談して仕事を辞めて、ちょっとお休みしていました。何ヶ月か経ったある日、友人の一人から「みっつ、そろそろ働かない?」って電話がかかってきて。

確かに、家でじっとしてるのが性に合わないなあって感じていた頃だったし、どんな仕事か聞いたら、児童室の職員だったんですよね。学校が終わった子どもたちを預かるところで、一緒に遊んだり、宿題を手伝ったりするのが仕事なんですけど「私が?」ってちょっとびっくりして。悩んだけど「このままだと、子どもと接する機会がないまま人生が終わるかもしれない」と思って、やってみることにしました。

介護の仕事でお年寄りと関わっていたときとは違うむずかしさと楽しさがありますね。お年寄りは、人生の大先輩だから時には甘えさせてもらっちゃったこともあるけど、子どもたちはそうもいかないというか。お母さんでも学校の先生でもない立場で、自分の言葉が、子どもたちにどう影響するかを考えたり、見本になる行動をしなくちゃって慎重になったり。今は、一緒になって喧嘩していますけどね(笑)。でも基本的には、子どももお年寄りもそんなに変わらないのかもしれません。子どもには子どものかわいさがあるし、お年寄りにはお年寄りの愛らしさがあるし。

休職してから自分の時間も増えたから、ものづくりも始めました。もともと手先を動かすのは好きだったけど、介護の仕事をしているときは忙しくて、なかなかできなかったんです。

橋本光恵さん
橋本光恵さん

こういうものを作りたいっていうよりは「刺繍糸ってきれいだな、この糸を活かしたいな」と思って、かぎ針編みを始めました。自分が作ったアクセサリーを販売し始めたのは、「森ジャム」がきっかけかな。友達が出店するのを手伝うついでに自分が作ったものを販売して接客したら「楽しい〜!」って(笑)。そこから少しずつ、アクセサリーを作り始めました。今では自分でデザインを考えていて、なるべく植物モチーフのものを、と思っています。最近は糸を草木染めするようになりました。これも、周りの人が勧めてくれて始めたこと。むずかしいって思っていたけど、やってみたらお料理みたいなんですよ。道を歩いているだけでも「あの植物は色が出るかな」「これはどうかな」って気になるようになりました。

児童室の仕事もアクセサリー作りも、誘いがなければ始めなかったことかもしれません。いつも誰かが私を、いろんな場所に連れてってくれるんです。

刺繍糸
かぎ針編みの三種の神器
かぎ針編みのアクセサリー

誰かと出会えると何かが起きる町

このウクレレも、周りに提案してもらって、始めたことの一つ。巡り合わせなんですよね。もともとはギターを練習していたんだけど、友達に「みっつ、ギターできるなら、うちの子どもにウクレレ教えてもらえない?」って。じゃあやってみようかなって思って、その子に教えながら私も弾き方を練習しました。町民文化祭とか発表する機会があったから、私がウクレレを教えていることが広まって、他の人からも「教えて欲しい」って言ってもらえることが増えて、今ではウクレレのクラスも開いています。

森ジャムでのウクレレ演奏会のようす。一番右の黒い帽子の女性がみっつさん

下川だと、どこに行っても誰か知っている人がいたり、知らない人でもすぐ仲良くなれたりするなって思います。森ジャムもウクレレ教室も、誰かと知り合うと、何かが起きて、次のつながりができていく。だからといって、くっつきすぎないというか、一人でいたいときは一人でいられるし、集まって何かしたいときは協力し合うし。お祭りをやるなら、参加したほうが楽しいし、なんだったら見ているだけじゃなくて自分も中に入った方がいいなって思います。

去年はコロナで、いろんなイベントが中止になっちゃったけど、アクセサリーのデザインを一つ増やしたり、ウクレレの発表会もできたらいいなって思っています。あんまり意気込んで大きなことをやるよりは、今までやってきたことの、少し上のステップを踏めたらなって。そうやって、日々楽しいことをちょっとずつ、周りの人たちと作っていきたいですね。

Text:Misaki Tachibana Photo:Yujiro Tada

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