吉岡芽映
吉岡芽映

下川は、都会とは違うスイッチが入る町

Profile

吉岡芽映

30歳 デザイナー
北海道士別市出身 2020年9月移住(多拠点)


「人には、風の人と土の人がいる」という話を聞いたことがあります。ひとところに留まり、その土地での暮らしを味わい根を張る覚悟を持つ人。もしくは、あちこち転々としながら各地で芽吹いた情報という種をもたらしてくれる人。それぞれもちつもたれつな関係で社会はうまく回っているのだ、というお話でした。下川町にも、やはり風の人と土の人がいます。地域に根ざす土の人もいれば、下川町を止まり木の一つとして転々と拠点を変えながら暮らす風の人もいます。今回ご紹介するデザイナーの“めいめい”こと吉岡芽映さんは、風の人、かもしれません。デザイナー、書家、そして最近は絵を描いたりグラフィック制作をしたり創作と表現と常に生きてきた、めいめいの下川町との出会いから暮らしぶりまで、うかがいます。

interview:2022年8月

吉岡芽映

吉岡芽映

デザイナー 北海道士別市出身

吉岡芽映

多拠点を始めた2年間の変化

出身は士別市上士別町で、実家はここから車で40分くらいです。下川町のことは仕事を通じて知りました。数年前、地域で暮らしながらその地の情報発信をするという仕事をチームで受けていて、タウンプロモーション推進部の方が、声をかけてくれたのがきっかけです。2019年2月中旬から1ヶ月くらい下川町で過ごしていました。

そのときは「森のなか ヨックル」(以下、ヨックル)に滞在していたんですけど、泊まっている部屋から山が見えて。実家にいたときも山が見えたから「すごく落ち着くな」って。こういう静かなところで作品制作をしたいと、ぼんやり思っていました。

下川町に拠点を置くことに、ためらいとか思い切った感じは特になくて。「もし良い感じの空き家があったら教えてください」って移住相談窓口の方に軽く伝えておいたら、ある日「今なら家あるよ」って写真が届きました。初期費用もないし月3万円だし「安い! 借ります!」ってすぐ返事しました。下見もせず写真だけで決めて、2年くらい前からこの家に住んでいます。いまは1ヶ月ごとくらいの頻度で、下川町と神奈川と行ったり来たり。十勝とか知床がある道東のほうでも仕事があるから、北海道内を移動することもあります。

吉岡芽映

めいめいが手がけた下川町のイベントチラシや冊子

多拠点を始めた1年目は町の中のイベントとかデザインの仕事とか、誘われたら何でも「はい、やります!」って断りませんでした。楽しかったけど、ちょっとせわしないというか。生活に慣れるのにも大変でした。下川で受け取るつもりの荷物を神奈川の家に届けちゃったりとか。

2年目になると仲がいい友人もできて、ちゃんと自分の暮らしができるようになりました。当初「下川に住みたいな」って思っていた際にイメージしていた、落ち着いて山を眺めるとか、そういう生活ができるようになりました。

1日の過ごし方も、1年目は関東と下川で全然違いました。でもそしたら、めちゃくちゃ疲れちゃって。だから起きる時間とか仕事をする時間とか刻むリズムは意図的に同じにしています。この2年で、多拠点の生活術がたくさん増えました。例えば、冷蔵庫の中の写真を撮っておく。そうすると次に下川に戻るときに足りないものを思い出せる。あと、生活用品はどちらの拠点でも同じものを使う、とか。ズレが少なくて疲れがなくなります。

吉岡芽映
吉岡芽映
吉岡芽映
吉岡芽映

いつでもよそ者、だからいい

いろんな人が自分の好きなこととか夢中になることをやっていて他人に干渉してこないのも、下川を拠点に選んだ理由の一つです。だからこそ自分の軸で対等に話し合える、お互いの軸で会話ができるっていうか。他人と比べない人が多いなって思います。

神奈川から戻ってきたとき、お隣さんに「お帰りなさい」って声をかけてもらえたり「下川に帰ってきてたんだね」と言ってもらえたりするのが新鮮です。下川に、いないことが前提というか。私自身も飽き性だから、常にその町の良さに気づけるのが、多拠点の良さだなと感じます。帰ってくるたびに「ああ、いい風だな」とか「土の匂いがするな」とか感じられるときが一番「拠点にしてよかったな」って思います。もしずっと住んでいたら、気づけないことにも気づけるというか。ずっとよそ者でいられることが、いいところだなって思うし、もうちょっと下川で暮らしたいと思えるような気がします。

近い未来より遠い未来を考えられる

とはいえ周りの協力があって、多拠点居住ができているなと感じます。除雪を友達に頼んだり、回覧板をご近所さんに回してもらったり。一人だけでは、この生活はできないなと痛感します。多拠点をしていると固定費は2倍になるし長距離移動も大変です。コストを考えると定住の方がいいだろうって思います。

でも、コストをかけるからこそ過ごせる時間があるなとも思います。下川で暮らし始めた当初は、作品制作をするために家に書室を作ったり意気込んでたりしていたんですけど、実際はあまり作ってないんですよ。ただただ、生活を楽しんでいて。

でもそれでも良いかなって。1人でぼーっと考える時間ができて、スイッチが切り替えられるから。

神奈川にいるときは目の前の仕事や締切のことを考えることが多いけど、下川にいるときは、もっと遠い未来のことを考えられるんです。下川にいるときは、なるべく仕事を持ち込まないようにしているからかもしれないけど。

そういえば、おもしろいことに気づいて。神奈川で買いたい家具とかお皿とか本と、下川で買いたい家具とかお皿とか本って、まったくちがうんですよね。下川で選ぶものは人間っぽいというか……自然に近いもので、優しい色のもの。神奈川で選ぶものは、ビビッド。超原色の緑のソファを最近買ったし、部屋にピンクのだるまが置いてあるし。神奈川で作る作品も、オレンジとか青を使ってアクリルで描いています。でも下川では、あんまりそういうものを描こうとは思わない。そういう意味でもスイッチが切り替わっているのかなって思います。

この2年で暮らしが落ち着いたなって思うから、そろそろ作品を作ろうかなって。多拠点にして自分の中でチャンネルが増えたから、ここで得られたものをこれからちゃんとアウトプットしていくんだろうなって思っています。

吉岡芽映の一日

ON

08:00 起床・洗濯
09:00 朝ごはん トマト・さつまいも・鯖缶・納豆の固定メニュー
10:00 始業 メール返信・デザイン制作や納品など
13:00 「アポロ」でピザか「美花夢」でミートソースパスタの昼食
14:30 仕事再開
16:00 プロテインを飲む
17:00 家で筋トレ
18:30 町内のスーパー「Qマート」で買い出し
19:00 「アポロ」でビールとごはん
22:00 入浴しながら漫画読む
24:00 就寝

OFF

08:00 起床・洗濯
9:00 朝ごはん トマト・さつまいも・鯖缶・納豆の固定メニュー
10:00 家のDIY ペンキを塗ったり家具の解体をしたり
12:00 友人たちと昼食
13:00 本を読んだり作品制作したり
16:00 プロテインを飲む
17:00 家で筋トレ
18:30 家でビールとご飯
22:00 入浴をしながら漫画を読む
24:00 就寝

Text:Misaki Tachibana   Photo:Yujiro Tada

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