みんなの「良いな」を集めて地域に必要な場を作りたい

Profile

若園佳子さん

食材のはかり売りと喫茶「月と野菜」店主
北海道豊頃町出身
移住した年:2014年


「チーズケーキが焼けたので、ちょっと取りに行ってきます」。開店の仕込みをしている合間に、取材を受けてくださった若園佳子さん。約10年前に下川に移住し、ふたりの子どもたちを育てながら、町内のさまざまな取り組みを担う一人です。2024年12月には、念願のお店をオープン。Instagramを中心に、新商品や出来立てのおやつを発信しています。地に足をつけ、食や季節の巡りを大切にしながら、日々の暮らしの味わいを全身で楽しむ佳子さん。取材では、その豊かさを、ご自身や家族だけでなく地域全体で共有したいという思いが、伝わってきました。

interview:2025年4月

若園佳子

若園佳子

食材のはかり売りと喫茶「月と野菜」店主
北海道豊頃町出身 移住した年:2014年 移住

家族との暮らしを大切にしたくて

下川町へ引っ越す前は、香川に住んでいました。当時、仕事に熱中しすぎて、結婚したばかりなのに家族の時間がなかなか取れなくて。このままじゃいけないと思い、移住先を探し始めたのが、今から約10年前。香川には3年ほど住んでいましたが、次は長い期間暮らすことを前提に引っ越し先を選ぼうと、夫の地元の岐阜県や私の地元の十勝地方も検討していました。また、移住先を探し始めた時期と、家具職人の夫が転職を考え始めた時期が重なって。林業に興味があるという夫の希望を聞いたとき、下川町に移住して当時の森林組合に勤めていた友人の田邊くんのことを思い出したんです。

若園家(写真提供:若園佳子さん)

町のことをウェブで調べたら楽しそうな雰囲気が伝わってきて、2014年の春に夫婦で下川町を見に来ました。田邊くんの案内だったこともあって、同世代で話が合いそうな方々がいると感じられたり、飲食店もいくつかあったり、田舎だけど楽しく暮らせそうな印象を受けました。その後、家や仕事もとんとん拍子に見つかり、下見のあと1ヶ月後くらいには、もう引っ越して来ましたね。

香川にいた頃は自分たちの暮らしが疎かになってしまったから、下川町に引っ越してきてからは、できるだけ家族でそろってごはんを食べるようにしています。食は、暮らしの中で一番大切にしたい部分。自分も家族も健康でいられるバランスを、今も模索中です。

良いなと思うもの、そろえました

ただ、いつか自分のお店をやりたいとは思っていたんです。生活に必要なものを町の中で買いたいと常々思っていたから「じゃあ自分で作ろう」と、2024年に食材のはかり売りと喫茶「月と野菜」をオープンしました。

食品は生産者の顔が分かるもの、雑貨は飽きずに長く使えて修理が可能なものを仕入れている

手作りのおやつが楽しめる喫茶スペース

打ち合わせなどにも最適な個室も

店名の「月と野菜」は、私の好きなものの組み合わせから名付けました。月も野菜も、季節と結びついていますよね。月は満ち欠けがあり暦と関連していますし、野菜にも旬がある。一年かけて巡って、同じようで、毎日違う。同じ季節でも、一回きりで終わりではなくて、毎日、毎年、ちゃんと変化がある。その巡りを楽しみながら生きていきたいなって思っているんです。数年前から犬を飼いはじめて毎日一緒に散歩していますが、一週間でも景色の変化を感じます。雨でも雪でも、毎日外に出て「昨日の月はあそこにあったけど、今日はここにあるんだな」とか「この虫の鳴き声はなんだろう」とか、そういうことに日々気づく生活をしたいなって。お店でも、季節の巡りを感じられるものをご提案していきたいなって思っています。

それから、店内の一部の商品は量り売りで販売しています。移住前に調べる中で環境未来都市に選定された町だと知ったことも、下川町に惹かれた理由の一つです。引っ越した直後は、ふだんの生活で環境に配慮した取り組みに触れる機会がなかなかなく、ギャップを感じたこともありました。でも下川に来てから、ごみのことやエネルギーのこと、環境に関する勉強会に参加するようになって「本当に地球が大変なことになっているんだ」と実感するようになりました。自分の生活と環境問題は、切り離して考えていた部分もありましたが、実際はぜんぶ結びついているんだなって。一人でできることは限られているけれど、できることから始めないと、何も変わらない。だからこそ、お店で量り売りを実践することにしたんです。

とはいえ、量り売りに慣れていない方や、そもそも量り売りという販売スタイルを知らない方もいます。だからパッと買って帰れるような個包装のものも置いています。まずは地域の方々に必要とされるお店になりたいし、みんなが欲しいものが手に入るお店にしたい。誰でもフラッとお茶しに来て「そういえば量り売りもやっていたな」と思い出してもらえるだけでも、第一歩になるなって。

ご近所の方がお茶しに来てくれたり、お一人で来て本を読んで過ごしてくださったりするのは、すごく嬉しいです。今まで知り合わなかった方々と言葉を交わしながら、少しずつ誰かの暮らしの一部になれたらいいなと思います。

知恵や経験を共有して支え合える方がきっと楽しい

お店で働くスタッフは、全員町内在住の計4名。それぞれが家族との時間や暮らしを優先し、カバーし合えるよう佳子さんから一人ずつ声をかけて集めた(月と野菜のInstagramより)

お店とは別に「下川ネットワーク」というLINEグループも立ち上げました。生活の困りごとや町内のお店の最新情報、譲って欲しいものや探しているものなど、ちょっとしたやり取りが誰でもできるグループです。いま180人くらい登録者数がいますが(2025年4月6日時点)、例えば「こんなお皿を探しています」と誰かが投稿すると、その日のうちに目当てのお皿が見つかったり「あの道は雪で通行止めでしたよ」とお知らせしたり。3月中旬(2025年)に下川町で断水が発生したときは、簡易水道の作り方や、断水解除後の電化製品のケア情報なども、いち早く共有されました。

私が日々、実際に使って惚れ込んだものをお店で紹介するように、みんなの知恵や経験や「これいいな」と思ったことを独り占めせず、自由に共有できるようにしていきたいですね。そうすれば、結果的に地域全体の暮らしがもっとよくなるんじゃないかと思うんです。そのため、町内の方々から「こんなものを置いてほしい」とリクエストをもらって商品に追加することもあります。

「月と野菜」が開店した2024年は、うちの他にも町内で新しいお店がいくつもオープンしました。「お茶する場所がたくさんできたら、お客さんの取り合いにならないのか」と言われたこともありますが、魅力的なお店がいくつもある方が、遠方からもわざわざ下川町を目指して来てくれる人が増えると思うんです。来てくれた人に「あそこも良いですよ」って他のお店を紹介しあって、町の中を巡っていただけたら。

それに町外の人から「下川町、なんか楽しそうだね」って言われるんですよ。必ずしも便利とはいえない立地なのに「どうしてそんなに新しいお店ができるの?」って。私が下川の好きなところの一つは、行政に頼り切るのではなく、欲しいものがあれば自分たちで作ろう、始めようとする人が多いところです。「どうしたらこの町がもっと良くなるだろう」って考えながら生きている人がいっぱいいる。だから「下川、すごいでしょ。楽しいですよ」って答えています。もし、これから「ここに住んでみたいな」って思ってくれる人が増えたら、もっと楽しくなるだろうなと思います。

若園さんの1日

ON

05:30 起床、メールチェックなど
06:20 朝食とお弁当作り
07:00 家族で朝食
07:30 ごちそうさま、家事
08:15 お店へ出発
08:20 仕込み・開店準備
10:00 お店オープン
16:00 閉店
16:30 閉店作業、翌日準備
17:30 子どもたちのお迎え
18:00 晩ごはん作り
19:00 晩ごはんを家族でいただきます
16:30 閉店作業、翌日準備
20:00 犬のさんぽ
21:00 子どもたち就寝
22:00 入浴・事務仕事
00:00 就寝

OFF

06:30 起床
07:00 家族で朝食
08:00 犬のさんぽ
09:00 家事
10:00 家族とおでかけ
16:00 帰宅、犬のさんぽ
17:30 こどもたちと晩ごはんづくり
18:30 晩ごはんを家族でいただきます
19:00 ごちそうさま、片付け
19:45 入浴
20:30 家族でカードゲーム
21:00 就寝

Photo: Yujiro Tada Text: Misaki Tachibana

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