足元の豊かさに目を向け、遠くの光を見失わないように地域をより良くするために、自分の在り方を考える時間にあとがきVOICES FROM TOWNSPEOPLEたくさんの組織で役職を掛け持ちし、いつも忙しそうだった麻生さん。下川町に住みつつ、月に一度は東京出張へ行き、都会の刺激を吸収する。それが、自分に合ったライフスタイルだと思っていたそうです。外出を自粛して数ヵ月経ってみると、ずっと町から出なくても平気な自分に気づきました。外界からの刺激は、テレビ会議や読書で十分。「自分が生きていく上で、必要なものってなんだっけ」。客観的になって、本当にやりたいことは何なのか考える麻生さん。外に出られなくなって初めて、地域内で経済を回すこと、町の自立や自給など、下川町がずっと目指してきたものがいかに大切なことなのか改めて実感する日々です。「地域や周囲の環境を良い方向に変えるには、まずは自分が変わらないといけないんだなって」。麻生さんの言葉にはいつだって、一本の筋が通っています。NPO法人「森の生活」代表麻生 翼さん名古屋市出身。2010年に下川町へ移住。「森の生活」では、森林環境教育や森と共にある暮らしを伝えている。また、町内の総合計画審議会など、町全体の取り組みにも幅広く参加。会うたびに「あれ、住民票移しに来たの?」と明るく声をかけてくれる、町のお兄さん的存在。コロナウイルスの影響で、長年営んできた食堂を急遽予定を早めて閉店することを決めた梅子さん。編集部の心配をよそに、電話先の声はいたって明るいものでした。「やりたいことがあるから、座ってられないの!」。新しく始まった、自身の作品を発表するギャラリー兼工房では、同じようにものづくりの楽しみを共有できる仲間を増やす場にもしていけたらと、未来の展望を語ります。緊張の日々は続いていますが、「散歩すれば道端の花が季節を教えてくれるし、田舎の町は“密”とは程遠いの」と梅子さんは朗らかに笑います。こんな状況の中、落ち着いてやりたいことに向き合えるのは「下川町の人口密度の低さや、身近にあって変わらない自然環境のおかげ」なのだと改めて感じているそうです。梅子さんのように、ただひとつの道を照らし、前を向いて歩いて行けたらと、いつも思わされます。離れるからこそ、見えてくることがある。自粛生活は私に、そんなことを教えるきっかけをくれました。6月に入って休業要請が解除され、町内には新規オープンの開店が続き、少しずつ元の生活に戻りつつあるようです。大きな投資をせずとも、小さく商手づくり作家矢野梅子さんいを始める。そうしてみんなが幸せになれるような経済圏を作ろうとする試みが、人口3,200人の町で始まろうとしています。そういう意味でも、これからますます目が離せません。あっという間ですが、次回のお便りは秋です。芽吹いた緑たちと、この“時代”は、秋にどんな実を結ぶのか。また10月、下川町の森が紅く染まる季節にお便りを書きます。下川町出身。2020年2月まで下川町で食堂を営む傍ら、木工や洋裁の技術を活かした作品づくりも行う。6月より、食堂を改装しギャラリー兼工房をオープン。スロウでは、春の恒例「うめこ下駄」でお馴染み。お問い合わせは、01655-4-3341(矢野梅子さん)まで。
元のページ ../index.html#19